近年の新入社員は、言われたことは素直に取り組む反面、自己防衛の意識や自己承認の欲急が強く、受け身な傾向にあると言われています。
一方で受け入れ側が新入社員に期待する内容はこれまでと変わらず、両者の間には年々ギャップが広がっています。両者の橋渡し役としてOJTトレーナー・メンターの役割が非常に重要になります。
本ページでは、メンター・OJTトレーナーとして新入社員に関わる上で重要な観点と、必要なスキルを習得するための研修プログラムをご紹介します。
メンター・OJTトレーナーという役割にやらされ感を感じてしまい、意欲的な新人育成が期待できない
OJTとは、職場での仕事を通じて、主に新入社員のスキルや心構えの開発を促す教育・育成手法のことを言います。日本においては高度経済成長期から浸透しているお馴染みの育成手法ですが、労働力不足が深刻化する昨今、即戦力の育成に効果的なOJTの価値があらためて見直されています。今回は、OJTの重要性やOJT研修の目的・メリット、またOJTを成功させるためのポイントなどについて解説していきます。
OJTとは、On the Job Trainingの略称で、職場での仕事を通じて新入社員のスキルや心構えの開発を促す教育・育成手法です。
一方で、OJTとは異なる育成手法として、Off The Job Training(職場での仕事を離れて行われる職場外研修)が存在します。
どちらか片方を実施するのではなく、仕事における観点やポイントをインプットする場としてのOff the Job Training、実践及び血肉化の機会としてのOn the Job Trainingを組み合わせることで、効果的な教育・育成が実現できます。
OJTトレーナーは、OJTにおいて育成対象者に対して、仕事に必要な知識、スキル、スタンスを指導していく役割を持ちます。
業務についての指導も必要であるため、基本的には育成対象者と同じ職場の先輩や上司がトレーナーの役割を担うことが多いです。
メンターは、OJTトレーナーと同じく人材の教育・育成を目的として育成対象者のサポートを行う役割を持ちますが、OJTの役割が業務における指導的要素が大きいのに対して、メンターは日々の業務に加えて精神的な支援を行う役割を指す場合が多いです。
その場合、OJTトレーナーのように業務の指導をする必要がないため、育成対象者が所属する部署とは異なる部署の先輩が対応することもあります。
OJTトレーナーとメンターの明確な定義の違いは存在せず、会社によってそれぞれの役割が異なるため、本ページでは新入社員の成長を目的としたOJTトレーナー、メンターの役割に共通して必要なポイントをお伝えします。
OJTは第一次世界大戦の頃、米国の人材育成の専門家であるチャールズ・R・アレンが生み出した手法だと言われています。当時、造船所で働く作業員の育成が急務となっていたなか、アレン氏は訓練所に頼ることなく造船所の現場監督が新人を直接訓練する手法を考案しました。この手法は「①手本を見せる → ②説明する → ③やらせてみる → ④確認・指導する」という4つのプロセスに沿って短期間で技能を習得させることから「4段階職業指導法」と言われ、OJTの起源になりました。日本では高度経済成長期にOJTが紹介され、その後、時代の流れに合わせて形を変えながら企業研修の基本的な手法として定着していきました。
バブル崩壊以前、終身雇用の時代は、企業の人的リソースにも余裕があり、じっくり時間をかけて新人・若手を育成する企業がほとんどでした。しかし、労働力不足が深刻化する現代においては、多くの企業が、新人・若手を育成する時間的・人員的な余裕を持てなくなっています。にもかかわらず、ビジネス環境は急速に変化しており、短期的な成果が求められる時代になっています。このようななかで、即戦力の育成に向いた実践型の人材育成手法であるOJTの意義や価値があらためて見直されており、多くの企業がこれまで以上にOJTに注力するようになっています。
OJT研修をおこなう主な目的についてご説明します。
OJTのもっとも重要な目的は、即戦力の育成でしょう。労働力不足が深刻になっている現在、多くの企業は新人に対し、今まで以上に早く仕事を覚えて、現場で戦力になってほしいと考えるようになっています。そこで、即戦力の育成に効果的な手法としてOJTが活用されるのです。
座学では習得できないスキルを習得することもOJTの大きな目的の一つです。
口頭で説明したり、資料を読んだりするだけでは身に付かないスキルや、実際に手を動かしたときの感覚などが重視されるスキルの習得にはOJTを活用すべきでしょう。
OJTトレーナーになるのは基本的に職場の先輩や上司です。継続的にOJTをおこなうことで、人材を効率的に育成できるだけでなく、「人が人を育てる」という文化が根付いていきます。スキルや専門性が円滑に受け継がれていく風土ができることで、継続的な組織力の向上が見込めます。
OJTに決まった期間はなく、会社ごとに期間を設定しておこないます。最適な期間は業務内容やビジネスによって、またOJTトレーナーなど教える側の従業員のリソースなどによって変わってきます。そのため、1週間程度でOJTをおこなう企業もあれば、半年、1年という長期でOJTをおこなう企業もあります。特に、新卒社員を対象にする場合は、入社後1年をOJT期間に充てる企業も少なくありません。一般的に、一人で現場に出られるだけの実践力を習得するには、少なくとも3ヶ月は必要だと言われます。そのため、3ヶ月以上というのがOJTの期間設定の目安になるでしょう。
OJTをおこなうメリットとデメリットを、教える側(OJTトレーナー・教育担当者)、教えてもらう側、企業側に分けてご説明します。
●メリット
OJTでは、基本的に現場の先輩や上司がトレーナー・教育担当者になります。そのため、教える側もOJTを通して業務への理解度が深まりますし、指導スキル・育成スキルを磨くことができます。「どのように教えれば理解しやすいのか?」といったことを試行錯誤しながらOJTを進めることで、トレーナーや指導者としての成長につながっていきます。
●デメリット
OJTトレーナー・教育担当者は、教育計画の作成など、OJTの準備に決して少なくない労力・時間がかかります。しかも、OJT研修だけに専念できるわけではなく、日常業務に加えてOJT研修をおこなうことになります。負担が増大することで業務過多に陥り、本来の業務に支障をきたしてしまうケースもあるようです。
●メリット
OJTは実際に業務を進めながら学ぶため、実践的なスキルを効率的に習得することができます。また、分からないことがあればすぐトレーナーに確認することができます。その場でフィードバックを受けられるのもOJTのメリットだと言えるでしょう。
●デメリット
OJTのデメリットとしてよく言われるのが、OJTトレーナー・教育担当者のスキルや教え方によって効果に差が生まれてしまうことです。たとえば、同じ部署で同じ期間、2名の新入社員がOJTを受けたとします。その後、現場に配属されたとき、2人のスキルや修練度に大きな差があったというのは、OJTのよくある失敗談です。
●メリット
OJTをおこなう際、通常は会場や外部講師を手配する必要はありません。企業内で日常業務を遂行しながら実施できるため、コスト面での負担が少なく済むのはメリットの一つだと言えます。また、職場の先輩・上司が後輩・部下に教えるという形なので、必然的に社内のコミュニケーションが活性化します。階層間での壁をなくし、風通しの良い職場をつくるうえでも効果が期待できます。
●デメリット
実際の業務のなかで教えていくため、体系的な教育が難しいという側面があります。業務の全体像を把握させるために一定の時間を有してしまいます。また、教える側のリソースが不足していると、OJTが片手間になったり、通常業務の生産性が低下したりするおそれがあります。
OJTの一般的な進め方・流れについてご説明します。
まずは、OJTトレーナーが実際の業務をおこない、その様子を対象者に見せます。対象者は、現場でどのような業務がどのような手順、スピード感でおこなわれているのかを実際に見ることで、業務をより具体的に把握することができます。
手本を見せて説明しただけでは、対象者がすぐに実践に移せるとは限りません。しかし、OJTでは実際に業務をやらせてみます。
対象者に実際に業務をやらせてみて、OJTトレーナーが「どこまでできるのか?」「どのくらいのスピードでできるのか?」「どの程度の仕上がりなのか?」といった結果を評価していきます。そのうえで、「どうすれば、もっとうまくできるのか?」「どうすれば、もっと早くできるのか?」といったことを考え、改善点をフィードバックしていきます。このときは、改善点だけでなく、良かったポイントなど気付いたことはできるだけフィードバックします。
OJTは通常、新入社員が入社するたびに実施するものです。そのため、PDCAサイクルに則って改善を繰り返していくことが重要です。
OJTの実施に際しては、まず育成計画を立てます。「誰を、いつまでに、どのような方法で、どのような状態へと育成するのか?」というように目標を明確にしたうえで、対象者、OJTトレーナー(教育担当者)、実施する方法や内容・プログラム、実施期間などを決定していきます。計画なしでOJTを進めると、内容の重複や漏れなどのムダが生まれがちで、育成効果が出にくいだけでなく、教える側の生産性低下にもつながります。
計画どおりにOJTを実施します。実施するうえで重要なのは、できるだけ計画どおりに実施することと、進捗や実施した内容、研修中に生じた課題などを記録しておくことです。こうしておくことで、次の「評価する(Check)」の段階で、より精度の高い評価をすることができます。OJTは複数のOJTトレーナーが分担して実施するケースも多いため、それぞれが進捗や課題を把握できるようにするためにも、記録を残すことは重要です。
実施した結果を評価します。育成計画がどの程度、成果に結びついたかをチェックするのはもちろん、「なぜ、うまくいかなかったのか?(うまくいったのか?)」という要因を分析することが重要です。
また、対象者自身に評価(内省支援)を促すことも重要です。OJTで得たことを対象者が自ら振り返り、うまくいかなかった理由や反省点、良かった点などを考えることは、現場に出て活躍するための大切なプロセスになります。同様に、OJTトレーナーにも内省の機会を設けましょう。OJTを通してトレーナーとして学んだことや反省したことを振り返ることで、次の「改善する(Action)」の段階で、より効果的な改善策を講じることができるはずです。
次回以降のOJTをより効果的なものにするための改善をおこないます。仮に、現状のOJTがうまくいっているとしても、毎回同じ内容で実施していると、やがて環境変化や対象者の変化によって効果が薄れ、育成がうまくいかなくなるものです。このような事態を避けるために、毎回、評価の結果を生かし、OJT研修のやり方や内容をアップデートするようにしましょう。
OJTを成功させるために重要なポイントについてご説明します。
OJTトレーナー・教育担当者は基本的に、自らの通常業務に加えて、OJTをおこないます。そのため、業務負荷がかかり、通常業務に支障をきたしたり、OJTがおろそかになったりすることがあります。不満感や不公平感から、モチベーションが低下してしまう可能性も否定できません。そうならないようにするには、OJTトレーナーに任せっきりにせず、周囲のサポート体制をつくることが重要です。たとえば、通常業務を他の従業員に分散させたり、OJTトレーナーを増やして研修を分担できるようにするなどの配慮をするようにしましょう。
すべての業務に関するスキル・ノウハウがOJTによって身に付くわけではありません。OJTに適した業務もあれば、一方でOJTをする意味がない業務もありますし、OJTをする前に座学の研修を受けたり、OFF-JT(Off The Job Training)を受けたりしておいたほうが、効率的にスキルを習得できる場合もあります。何でもかんでもOJTでカバーしようとせず、他の手法も併用しながら育成を進めるべきでしょう。
「OJTが終わったとき、どのような人材になっていてほしいのか?」という「求める姿」があってはじめて、OJTでやるべきことが明確になります。OJTをおこなう際は、求める姿から逆算する形で研修の内容・プログラムや順番、スケジュールを計画するようにしましょう。「去年と同じでいいよね」という形でOJTをおこなう企業もありますが、あらためて、求める姿から逆算された計画になっているかを確認してみてください。
OJTは基本的にマンツーマンでおこなうため、OJTトレーナーと対象者の相性が良くないと、コミュニケーションに問題が生じたりして、研修の効果が半減してしまうケースもあります。単純に「教えるのがうまいから」「リソースに余裕があるから」といった理由でOJTトレーナーを選んだり、持ち回りで選んだりすると、失敗に終わってしまうリスクがあります。対象者の経験や性格、考え方などを把握したうえで「嚙み合いそうなペア」を考えるのも大切なポイントです。
メンター・OJT制度の目的を実現するためには、まず、育成を担当するメンター・OJTトレーナー自身が、適切な役割認識を持つことが重要です。
具体的には、何となく新人の面倒を見る役割ではなく、新人の成長をサポートする役割であることを明確に理解する必要があります。
メンター・OJTトレーナーの役割は「何となく新人の面倒を見ること」ではなく、「新人の成長をサポートする」ことであることを明確に理解します。
具体的には、新人を「動機付ける」役割、新人を「正す」役割の2つが重要であることを理解します。
指導する際に新人が「表出した言動」を鵜呑みにするのではなく、言動の背景にある「意識や考え」にアプローチする重要性を理解します。
新人を「正す」うえで重要なポイントを理解し、演習を通じてスキルを習得します。
OJTトレーナーが新人育成において果たすべき役割は、「業務指導」「支援行動」「動機形成」の3つに分類されます。
それぞれに対して、具体的なスキルを習得することで新人に対して効果的な育成を行うことができるようになります。
※「業務指導」に関しては専門性・個別性が高いため、「動機形成」「支援行動」の2つの領域に関して、研修などで強化することが一般的です。
・知識やスキルを提供してくれる
・業務の相談に乗ってくれる
・業務に必要な情報を提供してくれる
・自分の感情や気持ちに寄り添ってくれる
・落ち込んでいるときに励ましてくれる
・前向きになる考え方を教えてくれる
・成果が出るように正しい方向に導いてくれる
・同じミスを繰り返さないように原因分析と概念化を支援してくれる
・ビジネスにおいて持つべき仕事への向き合い方を教えてくれる
メンター・OJTトレーナーは、下記のような状態に陥りがちです。
メンター・OJTトレーナーとしての役割が正しく認識されておらず、人によって育成方法や担当新人の成長度合いにバラつきが生じてしまいます。
また、結果として、メンター・OJTトレーナーという役割にやらされ感を感じてしまい、意欲的な新人育成が期待できません。
メンター・OJTトレーナーとして、新人のスキルや状況に合わせた効果的な指導方法を理解していないため、いくら指導を行っても、新人の行動になかなか変化が見らられない、といった状況に陥ります。
担当新人の特性に合わせて関わることの重要性を理解していないため、「昨年と同じように」といった形で新人に対して画一的に関わってしまいます。
結果として担当している新人のモチベーションが低下してしまいます。
メンター・OJTトレーナーとして正しい役割認識を持つと同時に、「支援行動」「動機形成」などの具体的なスキルを習得します。
メンター・OJTトレーナーの役割は「何となく新人の面倒を見ること」ではなく、「新人の成長をサポートする」ことであることを明確に理解します。
具体的には、新人を「動機付ける」役割、新人を「正す」役割の2つが重要であることを理解します。
新人個人個人のタイプに合わせた育成アプローチをする重要性を理解します。また、動機づけを行う際に必要な観点を理解し、演習を通じてスキルを習得します。
指導する際に新人が「表出した言動」を鵜呑みにするのではなく、言動の背景にある「意識や考え」にアプローチする重要性を理解します。
新人を「正す」うえで重要なポイントを理解し、演習を通じてスキルを習得します。
目的 | 内容 |
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モチベーションリソース理解 |
エクササイズ グルーピングをしてみよう
ワーク モチベーションリソースの自己分析
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タイプに合わせてモチベーションリソースをマネジメントするスキルの理解 |
ケース 仕事を魅力的に語れ!
エクササイズ 新入社員との面談①
ケース 亀丸くんへのアドバイス
エクササイズ 新入社員との面談②
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総括 | ー |
目的 | 内容 |
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マネジメントの分類の理解 |
ケース どんなアドバイスをしますか?
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“正す”コミュニケーションスタイルの習得 |
ケース 部下Aさんの困惑
ケース 新人Bさんの仕事振り
ケース 仕事の哲学
エクササイズ picture quiz
レクチャー スイッチ&フォーカス
ケース 部下Cさんの営業スタイル
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日常と接続させる | ワーク 日常との接続 ◇自分の部下に対して“正す”コミュニケーションを実践する グループ内でアドバイスをし合い“正す”コミュニケーションの技術を高める |
総括 | ー |
近年、就職先・転職先を選ぶ際に、OJT研修などの教育体制が充実しているかどうかを重視する人が増えています。労働力不足がますます深刻化する今後、企業が優秀な人材を獲得し、早期に戦力化するためには、OJT研修が欠かせないものになっていくはずです。人材確保、そして人材育成のため、より効果の高いOJT研修を実施していきましょう。
■リンクアンドモチベーションの研修の特徴は?
弊社では2001年より、企業に対するコンサルティングで培った ノウハウやセオリーを定式化し、教育研修を開発しています。 実際の職場での活用・実践を前提とした内容に加え、 体感型ゲームやグループワークなどを中心とした “楽しみ”ながら“学ぶ” 体感型の「エデュテインメントプログラム」 となっていることが特徴です。 また、弊社の基幹技術である モチベーションエンジニアリングを用いることで 単なる知識提供や意識変革ではなく、 参加者の「行動変革」を実現する研修となっています。
■研修プログラムの種類はどんなものがある?
「新入社員研修」や「管理職研修」といった階層別の研修から 「リクルーター研修」や「営業力強化研修」といったテーマ別の研修まで 企業様のニーズに合わせて幅広く実施しております。
■プログラム内容について相談することは可能?
可能です。 リンクアンドモチベーションの研修プログラムは、 企業様のご状況・ご要望に合わせてカスタマイズし、 ご参加者の行動変化が促進されるような 最も効果的な形でご提供させて頂いております。
■研修プログラムの費用はどの程度?
研修内容・実施人数によって費用は大きく異なります。 詳細は、お問い合わせページよりご相談下さい。
■研修プログラムの実施事例はある?
様々な規模・業界の企業様にサービスをご提供しております。 詳細は、実施事例ページよりご確認下さい。