クライアントの本質的な強みとカスタマーのマッチング、そして、新たなブライダルマーケットを創造するために 「営業ケイパビリティ」を型化し、営業パーソンに装着。

株式会社リクルートマーケティングパートナーズ

人口減少と競合環境激化により、挙式組数が減少している日本。一方でカスタマーのニーズは多様化し、ブライダル業界の競争はますます熾烈になっています。その業界各社を強力にサポートするのが、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ。

ブライダル情報サービスとして圧倒的なブランドカを誇る「ゼクシィ」を展開する同社が、リンクアンドモチベーションのコンサルティングを受け、「営業ケイパビリティの型化」に取り組んだ理由をお伺いました。

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加速するマーケットの縮小と競合の増加に直面

―現在のブライダルマーケットを取り巻く環境をお聞かせください。

竹原氏:ブライダルのマーケットには、イベントの場を提供・演出する式場を筆頭に、指輪や引き出物など多くの商品が関連します。その裾野は広く市場全体の規模は2.5兆円を超えています。

しかし、 2000年代に拡大し続けたマーケットは、少子化による人口の減少や結婚届出組数の減少により、2009年をピークに縮小傾向。さらに集客において式場側は厳しい状況に直面しています。それは競合の急増です。1組の挙式成約で数百万円の売上にもなるウエディングは、非常に利益率の高いビジネスです。

2000年以降、昔ながらの式場、ホテル、レストランに加え、貸し切りできるゲストハウスが人気になり、一気に新規参入が増えました。当初は、新しい店舗の増加とともにマーケットも拡大したのですが、近年では過当競争に陥り、全国どのエリアも式場は飽和状態であると言えます。

カスタマー(お客様)の数が減少しつつある中、式場の数は増え続けている状態ですから、式場が集客する難易度は格段に上がっている状況です。

マーケティング思考でクライアントに効果を返す試み

―厳しいマーケット状況の中、「ゼクシィ」ではどのような手を打って来たのでしょうか?

北井氏:「ゼクシィ」の役割は、クライアント(式場)の強みとカスタマーのニーズをマッチングし、クライアントの広告投資に対し、効果(集客)を返すことです。

マーケットが拡大していた数年前までは、「ゼクシィ」の広告ページ数が増えれば、その分クライアントがカスタマーに伝えられる総量が増え、集客に繋がっていました。しかし、世の中に情報があふれ、「広告ページ数のアップによってクライアントに効果を返す」というビジネスが限界にきていました。

一方で数年前、カスタマーニーズの多様化が進行してしているにも関わらず、ジャストアイデアでページボリュームを提案している営業スタイルから、マーケティングを軸とした提案型営業を強化することにしました。

そのために、マーケティング能力強化の研修を独自に開発し、営業パーソンに実施。 研修効果はすぐに顕れ、論理的にマーケットを分析し、ターゲット層のニーズを捉えた提案を行えるようになりました。 ところが、実施当初こそ集客にも繋がり、クライアントにも好評だったのですが、ほどなくして新たな課題が出てきました。

データやマーケット分析偏重からうまれた課題

―どのような課題が出てきたのでしょうか?

北井氏:マーケティングを強化したことで論理的にターゲットを分析し、過去のデータを元に成功事例の提案ができるようになったのですが、創造力が欠落して似たような企画が「ゼクシィ」の誌面に溢れてしまったのです。

例えば「他の式場ではフラワーシャワーが人気で、集客が増えた」となれば、その成功パターンを模倣した商品を提案するケースが増加。また、トレンドに合わせた表面的で同質な広告展開も増えてしまい、式場間での差別化が図りにくくなっていました。

カスタマーに新しい商品も提案できないことから集客減に繋がり、クライアントの信頼を失う、といった負のスパイラルに陥ってきました。マーケティング強化自体は間違っていなかったと思いますが、社員が表面的な理解に陥り、「一社ごとのお客様に対して考え抜いた提案をする」ということが疎かになりつつありました。

つまり「模倣のままではマーケットが縮小してしまう」「同質化した誌面ではマーケットが活性化しない」という大きな課題が出てきたのです。

事業価値をスキルに置き換える営業ケイパビリティの型化

―その課題解決のために、リンクアンドモチベーションに相談した理由は何でしょうか?

北井氏:解決するには、これまでのようにマーケティングなどの手法によって「効果が出るモデル」を明確にして、それを「徹底して広げる」という営業戦略ではなく、ひとりひとりの営業が多様なクライアントやカスタマーと向き合い、価値創造することが必要だと考えました。今も昔も優秀な営業パーソンはクライアントを熟知して、そのクライアントしかできないことを創造して提案していました。すなわち、「オペレーション型」の営業ではなく、新しい価値を生み出す「未来創造型」の取り組みです。

そこにあったのはクライアントの本質的な強みを理解し、潜在的な未来のカスタマーと結び付けるスキルです。その力が組織の中に浸透すれば、安易な模倣や誌面の同質化は起こりえないと考え、そのスキルを型化し、全営業パーソンに装着することにしました。ただ、優秀な営業パーソンの中に存在する、そのノウハウはあまりにも属人的で私たちだけでは型化するのが難しいと判断し、また私たちが解を持っているものではないため、一緒にディスカッションをしながら客観的に見て伴走してくれるパートナーが必要だと考えました。そこで研修プログラムだけではなく、組織開発のノウハウとソリューションを持っているリンクアンドモチベーションに「営業ケイパビリティの型化」について相談しました。

―「営業ケイパビリティの型化」で目的としたことは何でしょうか?

竹原氏:その目的は、「創造とマッチングスキルを活かしてクライアントに効果を返す営業パーソンの育成」。「ゼクシィ」は販促媒体ですからクライアントが広告という投資をしたならば、それに見合った集客が求められます。投資対効果が合わなければ、当然クライアントは離れていきますから、私たちの事業が成り立つ根本は「効果」を返すことに尽きます。そのため単に面白い広告制作や斬新な提案のためのスキル習得ではなく、「効果」つまり集客に結び付けられる営業ケイパビリティを型化し、研修にて営業パーソンヘの装着を図ることにしました。

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ハイパフォーマーが持つ営業ノウハウを抽出

―型化をするにあたって、どのようなプロセスで進めたのですか?

大島:「営業ケイパビリティの型化」のプロジェクトを立ち上げ、表面的な顧客理解に基づくマッチングではなく、クライアントの本質である事業価値に紐付いたマッチングや、「きざし」に着目し、将来的なカスタマーとのマッチングを可能とするスキルを明らかにし、営業パーソンに装着させる研修設計をゴールとしました。

まずは、既に未来創造型の営業を行っている優秀なハイパフォーマー数名にインタビューを行い、普段どのように仕事をしているのか、どのような思考プロセスで成果を出しているのかを伺いました。インタビュー前、ハイパフォーマーの方々はカスタマーの想いを実現することを重視し、情報収集もクライアントよりカスタマー側に偏りがあると仮説を立てていました。ところが、実際に伺うとクライアントのことをしっかりと理解し、クライアントさえ気づいていない強みを見つけ、いかにコミュニケーションコンテンツ(広告)として表現するのかに注力している話が多く聞かれました。強みをコンセプト化し、「それいいね!」とカスタマーが思ってくれるようカタチにするプロセスがそこにあったのです。

また、その取り組み方はハイパフォーマーごとに違い、属人的な手法だと思っていましたが、 複数人にインタビューを進めていくと、ケイパビリティの原型とも言うべき思考のプロセスは同じであることが分かりました。そして、これらのインタビュー内容からノウハウを抽出し、プロジェクトメンバーと共有しながら、ケイパビリティを型化していくことにしました。

抽出したノウハウを普遍的手法へと変換

―次段階では、どのようなことを行ったのですか?

川上:次に抽出したノウハウをどの営業パーソンでも使えるような普遍的手法へと変換しました。まず、インタビュー内容から、ハイパフォーマーがどのような思考プロセスでクライアントとカスタマーのマッチングを行っているのかを構造化 。これまで属人的に行っていた思考のプロセスを構造化することで、どの営業パーソンでも装着可能な思考プロセスヘと変換しました。その後、思考プロセスの中にある思考の観点を整理しました。それぞれの思考プロセスごとに、どのような観点が必要なのかを整理し、営業パーソンごとの違いや例外などを議論しながら、ケイパビリティとして習得させました。

例えば「クライアントの理解」という思考プロセスがあるのですが、競合も既にやっているブライダルフェアの見学」で満足しているようでは、 クライアントを理解していないと言わざるを得ません。クライアントヘのヒアリングはもちろん、クライアントらしさの情報を収集するアンテナを常に張り、式場のあつらえ方や、チャペルまでの導線などを見て、このクライアントが大切にしていることは何なのかを分析し、理解した上で提案することが大切なのです。

また「カスタマーの考察」では、例えば来館された人や成約されたカップルヘのアンケートを分析すれば、クライアントのどこに興味があるのか、どこを評価してくれているのかは分かるのですが、あくまでも「既に式場に足を運んでくれているカスタマー」のデータですから、そこから異なるタイプのターゲットを獲得する可能性を読み取ることは難しい。

過去のデータを見ているだけでは、未来に向けて何も創造できないわけです。クライアントの本質的な強みを見出し、今まで興味を持っていなかったカスタマーにも響くようなコンセプト考察をケイパビリティの中に取り入れることにしました。

「現在」「未来」時間軸で分けた2つの研修を設計

―最終的にどのような研修プログラムを設計したのですか?

大島:今回は 、ケイパビリティを2段階に分け、研修を2本作成しました。いきなり「未来を創造する」ことは難しいと考えたからです。まずは、基本的なプロセスや観点を学ぶベーシックな内容のものとして「マッチングスキル強化研修Basic(以下Basic研修)」、そしてそこから未来を創造するためのものとして「マッチングスキル強化Advance (以下Advance研修)」を設計しました。

―両研修にはどのような特徴と違いがあるのですか?

竹原氏:両研修の目的はともに、クライアントが持っている強みとカスタマーのニーズを「マッチング」させることで、「クライアントに効果を返す営業パーソンの育成」ですが、時間軸に違いがあります。 「Basic研修」の対象は、「現在のカスタマー」です。

今現在来館くださっているカップルを中心に深掘りし、同じニーズを持ったカスタマーを集客するためのスキルを営業パーソンに装着させます。一方、「Advance研修」の対象は、「まだ見ぬカスタマー」です。「まだ見ぬ」とは、少し未来のことを指しています。

まだ市場にも出ていない、市場に存在していないかもしれないカスタマーを対象にした研修に仕上がっています。かなり難易度の高い研修ですが、それを設計した理由は、日本の基本的なブライダルマーケットを拡大するためです。

「Basic研修」は「今、見えているカスタマー」を起点にしていますが、さらに集客を進めるには、競合するクライアントに来館しているカスタマーがターゲットになりがちです。しかしマーケットが縮小傾向にある中、これでは小さくなるパイを奪い合う構図になってしまいます。

そこから脱却するには、そもそものマーケットを拡大しなければなりません。 そこで「Advance研修」では、クライアントの強みから新たなスタイルを創造し、まだ顕在化されていないカスタマー、つまり未来のカスタマーのニーズを考え、実施意欲を高めていくスキル装着を目的としています。

スキルをしっかりと装着するために

―研修プログラムの設計段階で配慮したことはありますか?

大島:現場で動かしているプロセスと、研修で進めるプロセスがあまりにも乖離していると、装着に違和感が出て来る可能性もあります。

ですから設計を詰めていく中で、営業パーソンからのリクエストや修正の要望など、様々なフィードバックをもらいながら調整しました。その後もフィジビリティでの検証と修正を行いつつ、1年ほどかけて設計をブラッシュアップしていきました。

また、「Basic研修」の受講者は、1年間ほど時間をあけてから「Advance研修」が受講できるようにしています。ベーシックとはいえ、「Basic研修」で習得するスキルも非常に難しい内容ですから、研修後に使いこなしてからではないと、次の「Advance研修」を受講しても空振りに終わってしまうと考えたからです。

原則的には全員が 「Basic研修」を受講し、1年間現場でスキルを磨いてもらいます。そして、チームリーダーにポジションアップしている営業パーソン、もしくは「営業ケイパビリティを使いこなしている」「顧客満足度が高い営業を行っている」など次の段階に上がれるとマネジャーから判断、推薦を受けた方に限り、「Advance研修」を受けられるようにしました。

リアリティのある研修で受講者の実感値を高める

―研修の実施を社内で行った理由は何でしょうか?

北井氏:研修の実施に関しては、外部に委託せず社内のリソースで行うことにしました 。講師に「ゼクシィ」営業の現場経験がなければ、表層的な説明に終わってしまい、話にリアリティが無いと判断したからです。

失敗談、成功事例、クライアントから頂いた言葉の意味など実体験に基づいて営業パーソンが語ると、受講者にも実感値が湧いてきます。そこに各論をぶつけていきたいと考えました。 また、非常に難しい内容ですから内部で講師を担当するにしても、安易に選抜すると考え方にブレが出たり、クオリティが下がる恐れもあります。

そこで、営業経験の豊富なマネジャークラスの社員を選抜し、選任講師としました。今後、現場の経験値と同時に研修講師の経験値も蓄えていき、さらに教え方を磨いて、現場への装着スピードを上げていこうと思っています。

―研修の実施フェーズでリンクアンドモチベーションが担ったことは何でしょうか?

大島:実施フェーズでのリンクアンドモチベーションの役割は、本来の研修の目的が達成されるように支援することです。講師のためのマニュアルを作成し、運営の手順や解説のイメージを伝えました。

また、当日はオブザーバーとして参加しながら、参加者のワークヘの取り組み方はどうか、 伝えたいことが伝わっているのかを確認しました。そしてフォローしながら「個人ワークが多くてグループディスカッションが少な過ぎた」などの意見やフィードバックをもらい、引き続きプログラムの調整にあたっています。

「クライアントらしさ」をカタチに誌面を刷新

―「Basic研修」の受講者からは、どのような感想が聞かれましたか?

北井氏:受講したローキャリアの営業パーソンからは、総じて「クライアントに効果を返すために、何をすべきかが分かった」という声が多く聞かれました。 おそらくここ数年、クライアントは「ゼクシィ」からの提案に飽きていたかと思います 。先ほど述べたように、マーケティング手法で過去の成功事例ばかりを提案していれば、自ずと模倣のコミュニケーションコンテンツが多かったはず。もちろん 見た目はまったく違う広告でも、カスタマーに訴求する内容が同質化していては面白くありません。

しかし、今回の研修を通して誌面が大きく変わってきました。クライアントからも「自社のスピリッツまで深掘りし、提案してくれて非常に嬉しい」「私たちのことを、ここまで理解してくれてあリがとう」などと評価の声を頂いた営業パーソンが多くなっています。

また、リーダークラスの受講者からは、「日頃意識せずにマッチングをしていたが、体系的に整理できていなかった。型化されたことで自分の中でもすっきり整理でき、チームメンバーヘのティーチング、コーチングの精度も格段に高まった」という声が聞かれました 。

実際、このリーダーが率いるチームのクライアントヘ返す効果、つまり集客数は大きく増えており、受講者へ意図したマッチングスキル装着ができたとともに、チームメンバーにも営業ケイパビリティ型化の波及効果があったことが分かりました。

クライアントの価値をカスタマーの価値に転換

―「Advance研修」の受講者からは、どのような感想が聞かれましたか?

竹原氏:「Advance研修」の本格的な実施はこれからになりますが、試験的に実施した際に受講したリーダーの中には、クライアントのリソースを細かく確認できるよう独自のチェックシートを作った営業パーソンもいました。

また、「まだ見ぬカスタマー」と「見えているクライアント」では、どうしてもクライアント寄りの思考になりがちですが、「クライアントさえ気づかなかった価値を、潜在的なカスタマーの価値に転換することが大切 」という声も聞かれました。また、具体的なケースとして「まだ見ぬカスタマー」が求めている本当の価値に転換できたところ、「ゼクシィ」を経由しての来館者数が160%にまでアップしたクライアントもあったそうです。そのクライアントが大切にしていることは「おもてなし」でした。

しかし「おもてなし」をしたいカスタマーを深掘りしていくと、「豪華なおもてなしの演出」を求めている方もいれば、「真心のこもったおもてなし」を求めているカスタマーもいるわけです。そのクライアントの強みでもある「おもてなし」の価値を理解し、それを求めているカスタマーの価値に転換できた結果、今までとは違ったコミュニケーションコンテンツとなり、大幅な集客アップに結実。本格的な実施を前に、これまで設計してきた「Advance研修」の確かな有効性を確認できました。

「ゼクシイ」を新しい結婚文化の発信源にする

―最後に、本研修を通しての今後の期待や展望をお聞かせいただけますか?

北井氏:既存の研修でマーケティングスキルを習得した全営業パーソンに今回の 「マッチングスキル」「創造マッチングスキル」が装着されれば、「ゼクシィ」の誌面は100社100通りのクライアントらしさがあるコミュニケーションコンテンツで溢れるはずです。

そして今までに無かったスタイルも増え、選択肢が広がれば、結婚式をあげない4割のカップルから「これなら結婚式をあげたくなった」という声が生まれて来ると思います。やがてその効果はマーケットの拡大に結び付きますから、クライアントの利益を押し上げるだけでなく、ブライダル業界の持続的な成長に繋がることでしょう。

今後も日本のブライダルマーケットを支えるだけなく、未来の新しいブライダルスタイルや結婚文化も「ゼクシィ」から発信していきたいと考えています。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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