ケイパビリティとは?
~ケイパビリティの活用に向けたイメージが沸くよう、正確な定義やポイント、他社事例を纏めました~




戦略経済論の世界では様々な概念が存在します。1960年代にメイスンなどのハーバード学派の研究者達が提唱をした「S-C-Pパラダイム」から始まり、ポーターの「ファイブ・フォース・モデル」が生まれました。

そして1980年代になり、ポーターの競争戦略論のように企業の外部要素に注目をするのではなく、内部要素にも注目する必要があるということで、「ケイパビリティ論」が登場します。

今回はそんなケイパビリティの定義や活用に向けたポイント、他社事例などを紹介します。ケイパビリティは企業経営においては非常に重要な観点です。ぜひ参考にしてください。


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ケイパビリティとは?

■ケイパビリティの定義

ケイパビリティ(英語:capability)とは日本語で「才能」や「能力」を意味しますが、ビジネスにおいては、「企業成長の原動力となる組織的能力や強み」のことを指し、企業が競争戦略を考える上で非常に重要な要素です。

■コアコンピタンスとの違い

ケイパビリティと近い概念として扱われるコアコンピタンスとの違いから、ビジネスで使われるケイパビリティという概念を具体的に説明します。

ジョージ・ストークスなどの論文では「コアコンピタンスは特定の技術力や製造能力、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織的能力」と定義されています。両者ともに企業に内在する強みですが、表層に現れる技術力がコアコンピタンスで、その技術を支えている組織力がケイパビリティという風に言えます。

レストランを例にとって考えます。料理がとてもおいしいと評判のレストランがあったとします。レストランの画期的なレシピや調理方法がコアコンピタンスで、厨房の中でのチームワークがケイパビリティです。

このようにコア・コンピタンスもケイパビリティも差別化手法の違いでしかありません。最後にウォルマートとセブンイレブンの競争戦略の違いから、コアコンピタンスとケイパビリティの違いとそれによる競争方法の異なりを説明します。

コンビニエンスストアにおいては、発注量の管理が大切です。そのため各社はITシステムを活用しながら最適な発注量を導き出しますが、その際の工夫が各社の競争力を左右します。

例えばウォルマートは「データドリブン型発注」です。データドリブン型発注では、発注の意思決定は店舗ではなく本部にあります。本部側が過去の発注履歴や販売実績の情報を集約し、計算式に基づいて発注量を管理するのです。

この方法のメリットとしては、店舗側のオペレーション負荷の低下やデータに基づく発注量の決定が挙げられます。データドリブン型発注を可能にするデータ量や活用しているシステムがコアコンピタンスです。

こうした全社統一のオペレーション実現のためには、トップダウン型マネジメントに適した組織構築が必要となります。こうした仕組みを実現できる本部の支配力や現場の徹底力がケイパビリティです。

一方でファミリーマートは「仮説検証型発注」です。仮説検証型発注では発注の意思決定は本部ではなく店舗にあります。店舗側が本部のコンピューターで算出されたデータを活用しながら、発注量を決めるのです。

この方法のメリットとして、店舗側が自身の経験と客観的なデータを組み合わせて発注量を決めることが出来ます。仮説検証型発注を可能にする店舗側のナレッジやシステムがコアコンピタンスです。

こうした店舗毎のオペレーション実現に向けては、ボトムアップ型マネジメントに適した組織構築が必要となります。こうした仕組みを実現できる店舗側の主体性や本部とのチームワークがケイパビリティです。

■ケイパビリティの重要性

前提企業が競争に打ち勝つためには、他社と差別化を図ることが大切です。ケイパビリティも企業が競争に勝ち残るための差別化要因の1つですが、年々ケイパビリティの重要性は増しています。その背景には企業環境を取り巻く3市場の変化があります。

資本市場の変化

アメリカでは、人的資本経営のレベルを投資判断の軸とする流れを受けて、人材誘致(採用)・育成・維持(定着)…等に対する情報開示が義務化される動きもありますが、現在短期業績(業績や財務諸表)の良し悪しではなく、

中長期のESGをはじめとする企業の取り組みや非財務諸表が、投資判断の重点指標として注目・評価(重視)される世の中になっています。要は企業の内部要素に関する重要度が増しています。

商品市場の変化

現在はVUCA時代と呼ばれたりもしますが、グローバル化やテクノロジーの進化などにより商品のプロダクトサイクルが短くなったり、商品が模倣され易くなりました。要は商品による差別化が困難になっているのです。

労働市場の変化

資本市場の変化や、人材の流動化を受け、現在組織の内情がオープンになる時代になっていいます。そのため「事業規模」や「事業内容」ではなく、「組織が魅力的かどうか」によって、人が集まる時代になってきています。要は企業の内部要素に関する重要度が増しています。

このように企業を取り巻く環境は、「業績」「商品」「技術」だけでなく模倣されづらい「組織力」といったケイパビリティがより重要視される方向性へと変化しています。

ケイパビリティ・ベース競争戦略とは?

経済学においてはポーターの競争戦略論が主流でした。この戦略論はミンツバーグによってポジショニング論として特徴づけられてますが、競争優位の源泉を企業を取り巻く外部環境に求めます。環境空間のどこかに他社との違いを作り出すことができる「位置取り」があるわけで、それをはっきりさせようという発想です。

要は「競争を避ける戦略」です。

一方でケイパビリティ・ベース戦略は外的なコンテクストよりも、その企業の内部にあるコンテクストを重視します。自分達が持っている武器を理解した上で、それを簡単にマネができないように強化しようという発想です。

要は「競争に打ち勝つ戦略」です。

■4つの基本原則

ケイパビリティ・ベース競争戦略の4つの原則を紹介します。

〇原則1
企業戦略を構成する要素は、製品や市場ではなく、ビジネスプロセスである
〇原則2
主要なビジネスプロセスを他社に勝る価値を継続的に顧客に提供できるような戦略的ケイパビリティに転換することが競争の勝敗を左右する
〇原則3
SBU(戦略事業単位)と職能分野を結びつける一方双方の力を、これまでの限界を超えて引き出すためインフラに投資し、戦略的ケイパビリティを構築する
〇原則4
ケイパビリティは必然的に複数の職能部門にまたがるため、ケイパビリティ戦略を推進するのはCEOの仕事である


■ケイパビリティ・ベース競争戦略のメリット

ケイパビリティ・ベース競争戦略のメリットを一言でいうと、「模倣の難しさ」です。
ではなぜ模倣が難しいかを2つの観点から紹介します。

①暗黙性:実態が外から見えづらい

模倣するにはまずは理解する必要があります。ただケイパビリティはそもそも理解するのが非常に難しいです。レストランの厨房が見えづらいのと同様に、ケイパビリティの実態は外部からは見えづらいのです。

セブンイレブンを例にとると、使用しているITシステムは分かったとしても、その情報のどこに注目して発注量を決めているのか?だったり、どのように本部との連携を取っているのか?という本質的なレベルまで理解するのは非常に難しいでしょう。

②複雑性:多数の要素が絡み合って構成されている

仮に理解ができたとしても、模倣するにはそれを自社にも取り入れ、同じ水準で運用する必要があります。ただケイパビリティは同じ水準で運用するのが非常に難しいです。レストランの厨房と同様に、ケイパビリティは複雑に多数の要素が絡み合っているからです。

システムや商品は直ぐ模倣をする事ができます。実際セブンイレブンが使っているシステムと全く同じシステムを導入することはできるかもしれません。ただケイパビリティは簡単に は模倣できません。

セブンイレブンの例においても、日本におけるコンビニエンスの開拓者として「自分で考える姿勢」を大切にしてきたことが、ケイパビリティの根源にあると思いますが、それらを「言われたことを徹底する姿勢」を大切にしてきた企業が模倣しようと思っても、相当難しいことは、簡単に想像が付くかと思います。

■ケイパビリティ・ベース競争戦略のデメリット

①即効性の無さ:構築するまでに時間がかかる

ケイパビリティを構築するためには時間がかかります。そのため、画期的な商品によって即時で売上向上に繋がるといったように、即効性のある戦略ではありません。

②硬直性:一度構築したら変更が難しい

ケイパビリティには柔軟性がありません。例えば勝ち筋が決まっていた企業において、「徹底的に言われたことをできる組織力」を構築していたとします。ただ外部環境の変化で急遽イノベーションが求められ、「自ら考え挑戦する組織力」が必要になったとします。

その場合過去のケイパビリティが弱みになっているわけですが、これらを変更というか修正するのは非常に難しいです。大手企業において、組織風土変革が一筋縄では行かないのはこれが理由です。

ケイパビリティ戦略の方法とは?

ケイパビリティ戦略の立て方について簡単に解説をします。

■①顧客価値(競合ではなく自社を選ぶ理由)を定める

顧客価値は各社によって異なります。ただ大雑把に分けると、「他社より安い商品を提供する」か「高いけど、他社より良い商品を提供する」という2つに分かれます。念のため補足しておきますが、どちらに軸足を置くかという話であり、当然両方の観点で考えることが大切です。

前者の方針であれば、コスト削減を可能にするケイパビリティを構築するべきですし、後者の方針であればクオリティ向上を可能にするケイパビリティを構築すべきです。

例えばアップル社は「高いけど、他社より良い商品を提供すること」に勝ち筋を見出し、現在「洗練されたデザインの商品」で顧客から選ばれています。

■②顧客価値に向けたケイパビリティの理解

顧客価値が定まった後は、自社のケイパビリティを明確化します。アップルにおいては「洗練されていること」「ハイクオリティへの拘り」などがケイパビリティになりうるでしょう。

■③ケイパビリティをベースに各種バリューチェーンにおいる戦略立案

自社のケイパビリティをより際立たせるために、ビジネスプロセスにおいて様々な差別化戦略を策定します。

例えば97年に復帰したスティーブジョブスが、約15の個別製品を3つの製品に集約し、製品ラインアップを簡素化させたのは「洗練度」を高める戦略ですし、主力製品を販売する際、家電量販店だけに任せるのではなく、あえて直営店を各地に展開しているのは「ハイクオリティへの拘り」故の戦略です。

参照:百嶋 徹「あっぷるのモノづくりに学ぶ」

ダイナミック・ケイパビリティ論とは?

現在「ケイパビリティ論」はティ―ス、ゾロ=ウィンターらによって、「ダイナミック・ケイパビリティ論」へと発展をしています。この章では「ダイナミック・ケイパビリティ論」について説明します。

■ダイナミック・ケイパビリティ論はなぜ提唱されたのか?

ではなぜダイナミック・ケイパビリティ論が生まれたのでしょうか。答えは、外部環境の変化によって、「ケイパビリティ」が強みではなく弱みとして機能しうることが観察されたからです。

ケイパビリティのデメリットでも触れましたが、「徹底的に言われたことをできる組織力」が外部環境の変化によって強みから弱みに変わってしまうこともあるでしょう。そんなケイパビリティのデメリットを解消するために発展したのが、「ダイナミック・ケイパビリティ論」です。

■ダイナミック・ケイパビリティとは?

ダイナミック・ケイパビリティとはティ―スらによって、最初に提示された概念ですが、あえて日本語に訳せば「変化対応的な自己変革能力」です。

企業経営においては、環境の変化に対応して既存の資産、資源、知識などを再構成し、相互に組み合わせて持続的な競争優位をつくり上げる能力です。必要とあれば、他企業の資産や知識も巻き込んでオーケストラのように構成する能力も含まれます。

■ダイナミック・ケイパビリティ戦略論とは?

ではどのようなプロセスでダイナミック・ケイパビリティ戦略を実現すれば良いのでしょうか?今回はティ―スの定義にそって、解説します。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略の立て方

①感知
環境変化に伴う脅威を感知します。
②捕捉
そこに見出せる機会を捉えて、既存の資源・ルーティーン・知識を様々な形で応用し、再利用します。
③変容
持続的競争優位を確立するために、組織内外の既存の資源や組織を体系的に再構成し、変容させます。上記3つのプロセスを踏むことで、企業は一次的な競争優位ではなく、持続的な競争優位を確立することができます。

ケイパビリティの活用事例

ケイパビリティの活用事例としてサウスウエスト航空の事例をご紹介します。1973年以来、40年もの間黒字経営を継続させているサウスウエスト航空は、「お客様第二主義、従業員第一主義」という珍しい企業ポリシーを掲げていますが、これは正にケイパビリティに着目をして、戦略を考えていくという意思表示とも捉えることができます。

サウスウエストは「他社より安い商品を提供する」という顧客価値の提供に向け、下記のような様々な特徴があります。ケイパビリティではないですが、これらも差別化につながる重要な要素ですので、念のため記載します。

特徴
・ファーストクラスがない
・座敷指定がない
・機内食がない
・清掃員がいない

さて本題のケイパビリティについてです。航空業界では「ターン時間」と呼ばれる、空港についた航空機がゲートに到着し乗客が降りてから、次の乗客が乗って、再度飛び立つまでの時間が計測されています。

このターン時間はコスト削減に重要な意味を持つ指標なのですが、サウスウエストの目標ターン時間はわずか15分であり、これは競合他社の平均の半分から3分の1という短さです。

この「15分ターン」を支える組織力こそがケイパビリティです。殆どの航空会社では異なる機能部門に所属する人々の役割を明確に分業させています。一方サウスウエストでは、明確な役割分担はなく、手の空いている人が臨機応変に助け合いながら取り組んでいます。パイロットが機内荷物を処理することもあります。

これにより頭数が少なくてすみ、従業員数が少なくてすみます。現にサウスウエストの一機当たりの従業員数は、大規模な会社と比べて半分程度になっています。

そしてターン時間は評価・報酬システムとも連動しているため、ターンチームは円滑にコミュニケーションを取りながら、ターン時間短縮に全力で取り組みます。

このようにサウスウエストの低価格という価値を支えているのは、「成果創出に向けて主体的に助け合う組織風土」だったり、「組織内のコミュニケーションの円滑さ」というケイパビリティというわけです。

記事まとめ

ケイパビリティについて理解して頂けましたでしょうか。環境変化が激しくなっている中で、ケイパビリティを意識した戦略作りの重要度は増しています。

ケイパビリティ論の世界は発展途上で、様々な学者が様々な定義や内容を発表しています。ただそれらの共有の目的は「企業が持続的な発展を遂げること」です。

表層的な言葉に惑わされず、「企業が持続的な発展を遂げる」ための観点の一つとして本記事が少しでも参考になれば幸いです。

※参考:ケイパビリティについて更に深く学びたい方は下記の書籍がお勧めです。
菊澤 研宗『ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論』



楠木 建『ストーリーとしての競争戦略』

著者プロフィール

  

織田 桂伍

【プロフィール】
リンクアンドモチベーション入社。ベンチャー企業向けコンサルティング部隊で、新規事業の営業とコンサルを経験したのち、現在は大手企業向けコンサルティング部隊にて、人事制度コンサルや研修など人材開発・組織開発サーベスの 営業をしている。

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