バブル崩壊以降、わが国の経済・産業が大きく構造変化をし、金融の再編やグローバルな競争が激化する中、 あらゆる最先端の金融サービス・ソリューションを複合的・連続的に提供する 「資産回転型ビジネスモデル」を推進してきたM銀行。
その世界水準のサービスに対応したグローバルな組織と人材の強化に取組む同行が、 入行社員のエントランス・プログラムとして「中堅社員(リーダー向け)研修」と「新入社員研修」を導入した理由を、 キャリア戦略部のM氏に伺いました。
当行は、大企業(一部上場企業等)およびそのグループ会社や金融法人、 公共法人ならびに海外の日系・非日系企業向けに様々な金融ソリューションを提供していますが 近年、コマーシャルバンキング業務とインベストメントバンキング業務の並進・融合を推進することで 総合的なソリューション営業力の強化を図っています。
当行は、強固なコマーシャルバンキング業務の基盤に基づくお客さまとのリレーションのもと、 シンジケーションビジネスやM&A、各種流動化、レバレッジドファイナンス、 プロジェクトファイナンスやCMS等、お客さまの企業価値向上に貢献する 高度で先進的なソリューションやプロダクツの提供に取組んでおります。
また、「強固なコマーシャルバンクの基盤に『真』のインベストメントバンクを構築し、 それをさらにグローバルに展開する」という次なるビジネスモデルの確立を目指しています。 そこで昨年度に「投資銀行宣言」、今年度は「グローバル宣言」を行い、 国内外でのプレゼンスを高める一方、それらのテーマを遂行できる人材の育成に力を入れています。
インベストメントバンキング業務は、従来の銀行の枠を越えた業務の多様性、専門性、 様々なソリューションを俯瞰できる総合力を必要としますし、 グローバルな展開にはビジネスレベルのグローバルコミュニケーション力をベースに 各海外拠点の金融マーケットについての理解、および 日系・非日系企業のニーズに応えられる金融ソリューションの経験などが求められます。
当行としては、既にキャリアを持ち、即戦力として活躍できる人材を主にキャリア採用にて、 次世代にそれらの業務の第一線で活躍できる潜在的な能力を持った人材を新卒にて採用しています。 そして、採用した人材が当行の社員として早期にパフォーマンスを発揮できるよう注力しているのが エントランス・プログラムなのです。
一言で言えば人材の「ダイバーシティ化」が進んでいるためです。
例えば、キャリア入行者の中でも「金融経験が豊富な人/少ない人」「ビジネス経験が長い人/短い人」と 個々人のレベルに差があります。
また、新卒の採用コースも、 当行のバンキング業務を中心にグループ全体をキャリア形成のフィールドとするオープンコース採用、 クォンツ等の高度なファイナンス工学の知識・スキルを活かしていく金融テクノロジーコース採用、 更に、コーポレートファイナンス業務を中心とした専門分野での活躍を期待して 当行でキャリアをスタートするGCFコース採用等に分かれています。
さらに海外のナショナルスタッフも、今後は地域に拘らない拠点間の異動や、 マネジメントポストへの積極的な登用などグローバルなキャリア戦略を展望しており、 国内外ともに採用する社員の多様化が進んでいます。 そのため入り口での教育「エントランス・プログラム」を強化し、 様々な経歴を持った人を早期に当行の社員として即戦力化していくことに注力しているのです。
キャリア採用は2年前から本格的に開始しました。
従来、あまり積極的でなかったキャリア採用を強化した理由は、二つありました。
まず一つ目は、グローバル展開に向けた人材の補強です。
新たに市場を開拓していく中で、即戦力として活躍できる専門性やビジネススキルが高い人材が必要だったのです。
しかし、実際にキャリア採用を始めると、いくつかの課題が発生してきました。
多くのキャリア入行者を迎えたといっても、何千人という組織の大きさから考えればその数は多くはありません。
また、今までキャリア入行者をそれほど多くは採用してこなかったため、 キャリア入行者が馴染みやすい風土もできていませんでした。
そのような背景から、キャリア入行者が現場でスムーズに仕事上のネットワークを構築できなかったり、 悩みを抱えていても気軽に相談できる人がいない状況ができるおそれがありました。 それでは、即戦力としてすぐに本来の力を発揮することは難しくなります。そ こで、この“ネットワーク構築”をサポートするために、社会人歴は違えども同じ時期に入社した者同士が 「同期」として絆を強めてもらうことが必要だと感じ、入社時の研修を強化することにしたのです。
プログラムの中で、各人が自分の歴史を振り返り、 グループのメンバーと共有するというワークがあったのですが、みなお互いの話に聞き入っていました。 それぞれに全く違う背景を持っているために、お互いの経験を共有することは非常に刺激になったようです。 年齢が上がるにつれ、これほど深くお互いのことを知る機会は徐々になくなりがちです。 それも考慮すると、入社という節目にお互いの過去の経験や今後の目標を語り合えたことは、 同期の絆を強くするために非常に有効だったと思います。
また、個々人の意識面でも大きな変化がありました。 中堅社員(リーダー向け)研修では、『「労働の対価として給料をもらう」のではなく、 「自らの出した価値の対価として報酬を得る」のだ』という 自立したビジネスパーソンが持つべき考え方を学ぶのですが、 この考え方が当行の「プロフェッショナリティ」に合致していたと感じています。
同期の絆を強めるだけでなく、即戦力として期待される人たちが意識の転換を図るためにもよいきっかけになったと思います。
この研修は昨年より継続的に導入しているのですが、第1回、第2回と回を重ねるに従って、 受講者の感想が良くなってきています。
具体的には「自分とは違う様々なキャリアを持った方と意見交換や議論ができて刺激になった」 「自分でも気づかなかった強みを、グループの他メンバーから言われ、自信に繋がった」 「自分のキャリアを改めてスタートするにあたって非常に良い区切りになった」などの声が聞かれ、 狙い通りの効果が出ていると確信できました。
特に、研修の最後のプログラムである今後のアクションプランを他のメンバーに対して発表する場面では、 経験が豊富なキャリア入行者からは「早く自分の力と経験を活かし、会社に対して貢献したい」という言葉があり、 逆に金融経験の少ない方は「1つ1つできることから始めたい」 「自分が早く組織に定着するというところに注力したい」という言葉が聞かれ、 多様な経歴とレベル差を持つ社員それぞれにあったスタンス形成ができたことを実感できました。
新入社員に対しては、昨年から7ヶ月間という長期の配属前研修を行っています。 OJTとOff−JTを組み合わせた内容になっていますが、 コーポレート銀行の現場に出るにあたり最低限必要な知識習得が中心となっており、 習得レベルをチェックするテストが行われるなど厳しいものとなっています。
そこで懸念された問題が2点ありました。 1点目は、知識習得型の研修が続くことで新入社員が知識偏重型になってしまわないかということです。
2点目は、座学中心の研修をこなしていく中で、受身体質になったり、 何事にも正解を求めるようにならないか、ということです。
今後、より一層、インベストメントバンキング業務の強化、ならびにグローバル化を推し進めていく中で、 このような状況では実際のビジネスで高い成果を出すことは困難になります。 そこで、学生から社会人への意識転換を図ると同時にこれらの問題を解決するため、 「ダーウィン研修」の導入を決めたのです。
研修にあった「求人広告を提案せよ!」というグループワークは、 受講者の学生気分を吹き飛ばす厳しい内容のものでした。 LMIのスタッフをクライアント役にして求人広告のソリューション型営業を疑似体験するのですが、 当然クライアントが最初から正解を持っているわけではありません。
また、ただ頑張ってクライアント企業の情報を集めても、答えが出るわけでもありません。 自分達で情報を集め、仮説を立てて解決策を練り、クライアントにプレゼンテーションする。 その中で、自分達なりにソリューションを生み出していくのです。 そうすることで、ビジネスでは「答え探し」ではなく「答え創り」が大切なのだという考え方を学んだようでした。
また、非常にストレスが強い状況下では、“他人の立場を考えること”などといった 自分が簡単にできると考えていたことが全くできない現実にも気づいて、大きなショックを受けたようでした。 そういう厳しい現実を目の当たりにすることで、学生気分も払拭されたようです。
新入社員(新人・新卒向け)研修を導入した狙いの通り、学生から社会人への転換を図るとともに、 知識だけでは成果が得られないことを強く感じてもらえたと思います。 受講者からは、「試行錯誤して大変だったが最後には達成感を感じ、本気の大切さを学んだ」 「受講後、数ヶ月経ったがあのとき学んだことは忘れていない」という声も聞かれ、 私たちの期待通りの成果があったと感じています。
その主な要因としては、プログラムの構成が綿密に練られていると同時に、 クライアント役のスタッフの方など、LMIの方が非常に本気で熱く対応してくれたためだと感じています。
去る11月にニューヨーク証券取引所へ上場しました。 今後は従来に増して、グループ各社は、それぞれの特性・得意分野を強化することで、 より高度な金融サービスのニーズに応えていくことが求められるようになります。 また、グローバル化のスピードもより一層加速することも間違いありません。
そのため当行においても、育成体系を激しく変化する環境に対応させて変化させていくことが重要になります。 自分達でしかできない部分、外部の力を借りて強化したほうが効果的な部分をしっかりと見極めながら、 より高いレベルの人材が育つことのできる教育環境を構築していこうと考えています。 それにより、多様な人材が弊社の一員としてグローバルに活躍することを期待しています。