DX人材を採用する方法とポイント
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、政府も推進しており多くの企業の経営課題やテーマとなっています。DXを推進するためには、デジタルシステムやツールを導入することも大切ですが、全社のDXを推進する「DX人材」の存在が不可欠です。DX人材の存在により、ただのデジタル化ではなく、ビジネスを変革するDXを実現することができます。そして、DX人材から選ばれる存在となり、採用を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。本記事では、そんなDX人材を採用する方法やポイントなどをご紹介します。
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DX人材とは?
企業のDXを推進するために不可欠な存在であるDX人材ですが、DX人材とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、DX人材についてその意味や資質などの基本的な情報をご紹介します。
DX人材の意味・定義
まず、DXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を略した言葉であり、経済産業省が公表している「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
つまり、DXとはデジタル技術を導入しているだけではなく、企業経営をデジタル技術の活用により変革することを意味しています。そのため、DX人材はパソコンやデータに強いというだけではなく、以下のような要素がある人だと言えます。
■DX推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材
■各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取組をリードする人材
DX人材に必要な資質
DX人材に必要な資質について、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表している「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」を基にしてご紹介します。
こちらの調査では、DX人材に必要な資質は以下の6つの因子に分類することができるとされています。
適性因子 |
概要 |
---|---|
不確実な未来への創造力 |
・取り組むべき領域を自ら定め、新分野への取組みを厭わず、ありたい未来を描き、挑戦する姿勢 ・課題設定力 |
臨機応変/柔軟な対応力 |
・計画通りのマネジメントではなく、外部の状況変化や状況を踏まえ、目標を見失わずに、都度ピボットしながら進めていく姿勢 ・当初の計画にこだわりすぎない |
社外や異種の巻き込み力 |
・対立する周囲のメンバーを巻き込むだけでなく、外部の「他者」との交わりを多く持ち、自分の成長や変化の糧にできる受容力 |
失敗したときの姿勢/思考 |
・一時的な失敗は、成功に向けた過程であり、失敗を恐れず、立ち止まらず、糧にして前に進めることができる姿勢 |
モチベーション/意味づけする力 |
・自ら解決したい・取組みたい課題を明確にし、自らの言葉で話すことができ、前向きに取組みたいと感じられる姿勢 ・主体性・好奇心 |
いざというときの自身の突破力 |
・解決や困難な状況に陥ったときでも、諦めずに、様々方法を模索し、壁を突破するためにリーダーシップを発揮する姿勢 ・責任感 |
DX人材の代表的な職種
DX人材が担う仕事については、代表的な職種が分類されています。経済産業省が公表している「企業と連携するデジタル人材に関する調査」によると、以下の6つの職種が挙げられています。
■プロデューサー
DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材
■ビジネスデザイナー
DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進などを担う人材
■アーキテクト
DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材
■データサイエンティスト/AIデザイナー
DXやデジタル技術やデータ解析に精通した人材
■UXデザイナー
DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材
■エンジニア/プログラマー
デジタルシステムの実装やインフラ構築を担う人材
DX人材の採用市場の動き
近年は多くの企業でDX推進が行われており、DX人材の採用は活発になっています。その中で、採用市場でのDX人材の人数に対して多くの企業が採用活動を行なっているため、採用難易度は高まっていると言えます。ここでは、DX人材の採用市場の状況についてご紹介します。
DX人材の採用市場は競争が激しい
経済産業省の「企業と連携するデジタル人材に関する調査」を見てみると、多くの企業がDX人材が不足しているということが分かります。特に、プロデューサーやビジネスデザイナー、データサイエンティスト/AIエンジニアが比較的不足している割合が多いようです。
また、DX人材の量の確保の状況についての日米の比較も調査が行われています。
米国と比較すると、日本ではビジネスデザイナー、データサイエンティストの職種において、人材の不足感が強いという結果となっています。
これらの調査から、日本ではDX人材の不足が顕著であり、DX人材の採用が困難であることが推察されます。
DX人材を採用する方法
DX人材の不足を解消して、人材を確保するためには採用といった外部からの調達や、社内での人材育成などの方法があります。ここでは、主に外部からの調達方法について、そのメリットや注意点をご紹介します。
①中途採用
DX人材で即戦力な人を獲得するためには、中途採用が有効な手段です。中途採用を行い、経験やスキルを有している人材を獲得することで、比較的スピーディーに自社のDX推進に注力することができるようになります。加えて、自社内でナレッジやノウハウを蓄積することができるため、後の育成や教育も行いやすくなります。
一方で、DX人材は引く手数多であることを考えると、企業はその採用のために力を注ぐことが必要です。
②フリーランスの活用
中途採用とともに、フリーランスのDX人材を活用することも方法として挙げられます。フリーランスを上手く活用することで、柔軟に業務を委託することができるため、企業のDX推進を効率的に進めることができます。
フリーランスは比較的、中途採用よりも競争が激しくないと考えられます。一方で、委託する業務の範囲などは検討する必要があるため、仕事の役割分担に注意しましょう。
DX人材の採用における成功ポイント
DX人材を採用するためには、いくつかのポイントを押さえておくことが必要です。ここでは、DX人材の採用を成功させるためのポイントをご紹介します。自社の採用のご参考にしてください。
求める人物像・スキルを明確化する
DX人材を採用するためには、まずは自社が求める人物像やスキルを明確にしましょう。DX人材といっても、先述したようにその職種は様々なものがあり、役割も企業によって異なることがあります。
求める人物像・スキルが不明瞭のまま採用活動を始めてしまうと、役割が曖昧になってしまうため、求職者が応募する意欲が高まりません。また、応募があったとしても、自社内での採用基準が定まっていないため、合否を判断することが難しくなります。
採用によるミスマッチは、企業も個人も望ましくない結果に繋がることになるため、できるだけ具体的な人物像やスキル要件に落とし込むことをおすすめします。
企業のミッション・業務内容を具体的に伝える
入社後にどのような仕事や役割を任せたいのかといった、企業で規定するミッションや業務内容を具体的に伝えることも、DX人材の採用を成功させるためには大切なポイントです。
求人票にできるだけ具体的に記載するとともに、面談や面接の中でもしっかりと詳細な内容を伝えましょう。実際の業務内容や与えられるミッションが明確になると、候補者は入社後にどのような働き方ができるのかをイメージしやすくなります。そうすると、自身のキャリアイメージとの合致度合いも判断しやすくなるため、志望度が向上することが期待できます。
労働環境を整備する
DX人材の採用を成功させるためには、労働環境を整備しておくことも大切です。競争が激しいDX人材の採用市場に適応するためには、ある程度求職者がどのような労働環境を求めているのかを把握して、それに応えられるような準備をすることが必要です。
DX人材はIT業界の経験者が多いため、比較的他業界よりもリモートワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方が普及している環境にいた傾向があります。そのため、求職者自身も労働環境について、自分の裁量が反映できるものを求めていると考えられます。
全社的な労働環境の統一が難しい場合には、対応する部署で新しいルールを採用することも手段として挙げられます。
適切な報酬を用意する
仕事内容や労働環境だけではなく、適切な報酬を用意することはDX人材の採用を成功させるためには重要です。DX人材は高い専門性を有しており、市場価値も高い傾向があることから、ある程度高い報酬で働いていることが多いでしょう。そのため、適切な報酬を提示できるように業界や職種の相場を把握しておくことが大切です。
報酬の相場を確認するためには、転職エージェントからの情報収集や他社の求人票の確認などを行いましょう。それとともに、自社としてどの程度の報酬を用意するのかを設定し、候補者とのコミュニケーションの中でも希望の報酬を聞いておきましょう。
スピード感のある選考を行う
DX人材の採用選考を行うときには、スピード感を重視するようにします。DX人材は採用競合が多くなる傾向があるため、優秀な人材は同時に複数社の選考を受けていることが多いでしょう。
選考スピードが他社に比べて遅くなってしまうと、その分候補者が他社と接触する機会が増えることになります。その場合、自社の選考が進む前に他社への志望度が向上して、入社の意思決定が行われることがあります。
書類選考の結果や面接結果などの連絡は、少なくとも1営業日以内で行うようにするなど、選考スピードを上げるような工夫をしましょう。
候補者の疑問を解消し、意欲を向上させる
DX人材の採用を成功させるためには、候補者の入社意欲を向上させる関わりをすることが必要です。DX人材は多くの企業からアプローチを受けているため、「入社を待つ」採用ではなく「候補者を口説く」採用を行うことが大切です。
そのためには、自社の魅力や他社との違いを分かりやすく伝えるとともに、しっかりと候補者の疑問を解消するようにしましょう。面談や面接の際には一方的な説明ではなく、双方でコミュニケーションを取りながら疑問や懸念などを引き出します。出てきた質問や疑問に対して、丁寧に答えていくことで、自社に対する理解や共感が深まります。
DX人材を育成するメリット
DX人材を確保するためには、中途採用やフリーランスの活用のように外部からの調達を行うことに加えて、社内で育成することも手段として挙げられます。
DX人材を社内で育成することで、自社の目指す方向性やビジョン、仕事内容や顧客特性などに対して理解が深い人材によるDX推進が可能となります。元々自社への理解が深い人材がDX人材として活躍することで、DX内容が自社の状況や目的と乖離することが少なくなります。
DX人材を社内で育成する方法
DX人材を社内で育成するためには、様々な方法があります。ここでは、代表的な座学とOJTについてご紹介します。
①座学
座学では、DXに必要な知識やスキルについて、ある程度体系的に教育を行うことができます。座学による育成を行う際には、社内で講師を選定して研修や講習を実施することもできますが、社外の講師を活用することも有効です。
また、研修や講習の実施に加えてテストやレポート提出などを行うことで、より知識の定着を促進することができます。
②OJT
座学による育成だけではなく、OJTによる教育もDX人材の育成に効果的です。OJTとは、「On the Job Training」を略したものであり、実際の業務を通じて上司や先輩社員から教育を行う育成方法です。
OJTは実際の業務を通じて育成を行うため、実践的なスキルが身につきやすいというメリットがあります。OJTと座学のどちらが良いというものではないため、それぞれ組み合わせて実施することで学習効果が高まります。
(こちらもチェック:「OJTとは?メリットやデメリット、意味ややり方を徹底解説」)
(こちらもチェック:「OJTトレーナー・メンター研修とは?メリットは?効果的な進め方や育成のポイントを解説」)
DX人材の育成における成功ポイント
DX人材を育成を成功させるためには、いくつかのポイントがあります。DX人材の育成におけるポイントについて、代表的なものを確認しておきましょう。
異なる部署・階級の人材を選出する
DX人材の育成対象を選出する際には、異なる部署や階級から選ぶことをおすすめします。DX推進はデジタル化やITツールを導入するだけではなく、ビジネスモデルの変革や組織風土の改革などが含まれます。
そのため、様々な角度からの意見やアイデアを出してもらうことがDXには有効であり、DX人材としても異なるルーツを持っていると多様な提案が出ることが期待できます。また、兼任をしてもらう場合には他の業務で時間が逼迫しないように、業務ボリュームや役割を調整しておくことをおすすめします。
小規模のプロジェクトを繰り返す
DX人材の育成は大きな経営テーマとなりますが、育成をするためにはまずは小規模のプロジェクトを繰り返すことが効果的です。はじめから大きなプロジェクトを任せると、責任感は増すかもしれませんが、進捗や成長実感を感じにくくなるため、育成が上手く進まないことがあります。
スピーディーにPDCAを回して、育成計画の軌道修正を行えるようにするために、小規模な課題解決や組織改革などを任せてみましょう。ステップアップを続けながら知識やスキルを身につけることで、成功体験を重ねていくことができます。
育成過程を社内で可視化する
育成効果を高めるためには、DX人材の育成過程を社内で可視化することが大切です。よくある育成の失敗理由として、「施策を実施したが、効果があったかが分からない」「どのようなスキルが身についたのかが分からない」といったものが挙げられます。
DX人材の育成でも、同様の問題が生じることが懸念されます。そのため、DX自体の目的やビジョン、育成計画とその過程などを社内で目に見える形にすることが必要です。目的や育成過程が可視化されることで、取り組んでいることの成果や課題を把握しやすくなり、効果測定を行うことができます。
DX人材採用の成功事例
ここまでDX人材の採用におけるポイントや、DX人材の育成方法についてご紹介してきました。ここでは、実際にDX人材採用を推進している企業の事例についてご紹介します。企業事例をご参考にして、自社の採用方法への活用をご検討ください。
味の素グループ
大手食品メーカーである味の素グループでは、DX推進の一環で2019年からCDO(Chief Digital Officer)を創設して、全社の変革に取り組んでいます。同社では、年齢や社内での経験に囚われずにデジタル技術やデザイン思考が強い人材を、積極的にDX推進部門に配属するといった取り組みも行われています。
業務内容としては、工場での生産性向上や研究開発での更なるデータ活用、マーケティングの核心など広い範囲での活躍が用意されています。
(出典:味の素グループ「味の素グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)」)
東京ガス株式会社
エネルギー会社である東京ガス株式会社では、積極的にDX人材の採用を行っています。同社では、データ分析やその活用を中心にして、価値創造や課題解決に取り組む人材としてDX人材の役割を定義しています。
また、求める人材像としても以下のような要件を設定しています。
■一定以上の統計学・データ分析・プログラミングに関する知識・スキルを保有しており、社内外の関係者と協働しながら、多様なフィールドで中核となって力強く事業を推進できる人材
■責任感や使命感を有し、主体的に考え挑戦・行動し、仲間と協働しながら成長していける人材
■自らの考えを積極的に周囲に発信し、的確に伝達できる人材
(出典:東京ガス株式会社「DX/データアナリスト人材求む!」)
組織改革のことならリンクアンドモチベーション
※リンクアンドモチベーション様ご執筆※
まとめ
デジタル技術やITに関する知識・スキルを活用することで、企業のビジネスモデルや組織風土などの変革を行うことをDXと言います。DXはデジタル・ITツールやシステムの導入を行うだけでは実現できず、全社のDXを推進するDX人材の存在が不可欠となります。
DX人材は市場価値が高く、多くの企業が採用活動を行なっているため、DX人材が求めていることを把握して、効果的なアプローチを行うことが求められます。また、外部からの採用だけではなく社内での育成も行うことで、DX人材の確保を行うことができるでしょう。
DX人材に関するよくある質問
Q1:DX人材とは?
A1:DXとはデジタル技術を導入しているだけではなく、企業経営をデジタル技術の活用により変革することを意味しています。そのため、DX人材はパソコンやデータに強いというだけではなく、以下のような要素がある人だと言えます。
■DX推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材
■各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取組をリードする人材
Q2:DX人材を採用する際のコツやポイントは?
A2:DX人材を採用するためには、自社に対する志望度を高めるために、求めていることや市場での相場などを把握しておくことが重要です。DX人材を採用する際のコツ・ポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。
■求める人物像・スキルを明確化する
■企業のミッション・業務内容を具体的に伝える
■労働環境を整備する
■適切な報酬を用意する
■スピード感のある選考を行う
■候補者の疑問を解消し、意欲を向上させる
Q3:DX人材を育成する際のコツやポイントは?
A3:DX人材を確保するためには、採用だけではなく社内での育成も有効です。DX人材を育成するためには、座学やOJTといった育成方法を検討するだけではなく、以下のようなポイントを押さえておくことが大切です。
■異なる部署・階級の人材を選出して、多様な意見やアイデアでビジネスを変革できるようにする
■小規模のプロジェクトを繰り返して成長実感を感じられるようにする
■育成過程を社内で可視化して、効果測定を行えるようにする