コーピングとは?種類や導入方法を徹底解説
ストレスに対処し、良い方向に転換させるコーピング(ストレスコーピング)は、プライベートだけでなく仕事においても心身ともに健やかに働くために重要視されてきているテーマです。
社内教育としての導入や、組織体制づくりに取り入れる等によって社員のパフォーマンス向上につなげようとする企業も増えてきました。
しかしながら、そもそもコーピングとは何か・一体どのように取り組めば良いのかという方も多いかもしれません。本記事では、コーピングの基礎知識や効果的な方法、取り入れ方についてご紹介していきます。
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コーピングとは?
コーピング(coping)とは、アメリカの心理学者ラザルスによって提唱された英語のcope(対応する、対処する)から派生した言葉で、ストレスに対処するためにとる行動のことをいいます。
普段私たちは、さまざまなストレスを感じて生きていますが、強いストレスにさらされ続けると心の病になってしまう可能性があります。一方で適度なストレスは良い緊張感をもたらし、意欲を高めることにもつながります。
コーピングの技術を上手につかうことで、ストレスを排除したりコントロールできるようになります。
一般的にストレスコーピングでは、ストレスを感じた際に「ストレッサーによる刺激→認知→ストレス反応」という一連の流れを自分でしっかりと認識し、対処方法を考えるという作業を行います。
気晴らしや発散といった、一般的に知られる「ストレス解消」の方法だけではなく、ストレスをどのようにとらえて向き合うかという「認知」などさらに掘り下げた手法も含まれます。
コーピングが注目される理由
コーピングはストレス・マネジメントのひとつとして知られており、心身の病の原因となるストレスに対処する方法として注目が高まっています。
ストレスに起因する病気は、うつ病などの精神疾患だけではなく、脳梗塞や心筋梗塞など身体的な疾患もありますので、様々な疾患にも影響する重要なアプローチとして重要視されています。
コーピングやストレス・マネジメントが注目される背景には、財政を圧迫する医療費の問題もありますが、企業での過労死・自殺の問題などが問題視されるようになったことが最も大きいでしょう。
厚生労働省が平成29(2017)年に発表した労働安全衛生調査の報告書によれば、仕事に対して強いストレスを感じていると答えた人の割合は、約60%程度です。
過度なストレスは仕事のパフォーマンスやエンゲージメントに悪影響を与えてしまい、仕事の能率や生産性低下につながりかねません。
また最近では、パワハラやセクハラの防止に役立つとして、コーピングを取り入れる企業が増えてきています。
近年では、学生や転職希望者の多くが口コミサイトなどを閲覧しており、透明性高く企業内の様子を知ることができるようになっていることから、コーピングなどのストレス・マネジメントの手法を取り入れることは、社内の環境整備・エンゲージメント向上そして結果的に採用力の強化にも繋がります。
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そもそもストレスの原因ってなに?
「ストレス」とは、生活上のプレッシャーおよび、それを感じたときの感覚です。現代ではストレスを和らげる方法として、瞑想やマインドフルネスが取り上げられブームとなっていますが、ストレスは精神的なものだけでなく、寒さ暑さなど生体的・身体的なストレスも含みます。
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こころや体に影響をおよぼす「ストレッサー」には、大きく分けて「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「心理・社会的ストレッサー」の3種類があります。ストレスの要因=ストレッサーを認知することでストレスを感じ、精神や身体へ影響が及びます。
①物理的ストレッサー
温度や光、音など物理的な環境刺激のことを指しています。
②化学的ストレッサー(公害物質、薬物、酸素欠乏・過剰など)
化学物質や有機溶剤、金属、アルコール、タバコ、薬物、食品添加物といったものを指しています。
③心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事上の問題、家庭の問題など)
普段私たちが「ストレス」と言っているものの多くは「心理・社会的ストレッサー」のことを指しています。
不安、焦り、いらだち、怒り、緊張、抑うつといった感情をともなう「心理的ストレッサー」と、情報過多や過密な都市生活、経済問題、政治問題、職場関係といった「社会的ストレッサー」に分かれます。
ストレスを放置しておくリスク
昨今、多くの人が仕事やプライベートなど様々なシーンでストレスを感じています。
中には体も心も強い人もいるでしょうが、そのような場合でも過度なストレスの負荷がかかった場合、最終的には飲酒、喫煙、買い物やギャンブルの中毒になるなど、行動に変化が現れます。
つまり心身の強さに関わらず、ストレスの影響は何らかの形で表出します。
問題はそのような状況に自身や周囲が気づかなかったり、あるいは気づいていても放置してしまう場合です。
ストレスは心だけでなく血管・循環器系の異常など身体にも影響を与えることが研究で分かっており、最悪の場合メンタルヘルス疾患や身体を壊し休職・退職などの就業トラブルに繋がってしまいます。
【出典】厚生労働省:脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況
現在はこのような紛争・裁判も増えており、企業としても訴訟リスクは大きな痛手となります。このような問題は、例えば製造業や建設業の労災などが目立つイメージもあるかも知れませんが、決して業種特有のものではなくすべての企業が直面する可能性があります。
上記のような悪影響を回避するためにも、コーピングなどのストレス・マネジメントを行うことは大変効果的と言えるでしょう。
コーピングの種類は大きく分けて3つ
コーピングには、大きく分けて「問題焦点型コーピング」「情動焦点型コーピング」「ストレス解消型コーピング」の3種類があります。一つずつ見ていきましょう。
■問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングは、ストレスの原因となっている問題を解決することで、ストレスを解消しようとする、「ストレッサーそのものに対応する」方法です。
具体的に起きた問題への対処をとるパターンもあれば、自身の捉え方・考え方を修正することによって問題への捉え方・向き合い方を変えるというパターンも含まれます。
例えば、仕事がうまくいかないときに経験や知見のある上司・先輩に相談する / 勉強して新たな知識を身につける / 自分にはできないと思うことも「成長の機会だ」と捉えてできる方法を考える、等があります。
特に仕事においては、解決すべき(逃げられない)重要な問題が起きることもありますので、そのことでストレスを感じている場合は問題焦点型コーピングが役に立つでしょう。
一方で問題焦点型コーピングのデメリットとしては、原因解消のために無理に自身の考えを変えようとして疲れてしまう等があります。
■情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングとは、ストレスの原因となっている問題そのものに着目するのではなく、問題に対する自分の捉え方・認知、またそこから生じる感情(=ストレス反応)に着目することでストレスに対処する方法です。
例えば仕事がうまくいかないとき、「誰にでもこういうことはある」と自分に言い聞かせることや、仲の良い気楽な関係の友人と話してガス抜きをすること、「そのうちうまくいくだろう」と楽観的になってみること等が含まれます。
特にネガティブな捉え方をしがちな方は、「変えられないこと」に延々と向き合い過剰にストレスを抱え込んでいる可能性もあります。そのようなケースでは、一度ストレス反応を緩和し冷静に一歩踏み出しやすくすると言う意味では効果的な対処法といえるでしょう。
一方で情動焦点型コーピングは、ストレッサーではなくストレス反応に対処している方法であるため、根本的な解決にはならない可能性があります。
そのため今後もずっとそのストレッサーと向き合い続けなければならないという場合は問題焦点型コーピングと並行しながら、環境改善と精神的苦痛の緩和を併せて取り組むことがお勧めです。
■ストレス解消型コーピング
ストレス解消型コーピングとは、文字通り気晴らしをすることで、一般的なストレスへの対応として分かりやすい対処法です。
具体的には、楽しくお酒を飲んだり、カラオケで歌って発散したり、大好きな趣味に打ち込んだり、といったことが当てはまります、スポーツ等で身体を動かすことも効果的ですが、あまり考え込みすぎず没頭できるもの・自分に合った方法を選択することが重要です。
コーピングを効果的に行う方法
■問題焦点型のコーピング
現在直面している問題や状況に立ち向かい、直接的な解決を目指したり具体的な対策を立てるアプローチだとお伝えしました。
上司や同僚、家族など身近な人に相談することも方法のひとつです。悩みや不安に感じていることをはき出すだけでもストレスは軽減することができ、解決に向けて周囲の人々の力を借りることができるでしょう。
さらに環境を変えたりすると、ストレスを根本から解消できます。たとえば勤務時間の長さなどの業務負担が大きい場合、担当業務を減らすことでストレスが軽減されます。
また、弊社リンクアンドモチベーションでは、以下のように視界を切り替える技術を自分自身や、周囲の人に活用することでも問題解決に繋がると考えます。
タイムスイッチ
“短期⇔長期”“過去⇔未来”など「時間感」を広げたり、狭めたりすることで自分が持っていない視界で物事を捉える。
ズームスイッチ
“低⇔高”、“狭⇔広”など「空間感」を広げたり、狭めたりすることで自分が持っていない視界で物事を捉える。
チャンスフォーカス
気づいていない、もしくは気づいていても重要視していない「得られるもの」に目を向けさせることで、持っていない視界を提示します。
リスクフォーカス
気づいていない、もしくは気づいていても重要視していない「失うもの」に目を向けさせることで、相手が持っていない視界を提示します。
ゴールフォーカス
そもそもの「実現したいこと」に改めて目を向けさせることで、相手に足りていない視界を提示します。
※試行切り替えの観点 スイッチ&フォーカス
またそもそも周囲に話しづらい内容であったり、話せる人がいない場合は職場や公的機関の相談窓口を利用しましょう。業所側からは、相談しやすいよう認知の機会を増やしておくなど、窓口を広げておくことが重要です。
■情動焦点型のコーピング
例えば、リラックスするための呼吸法を身につけたりヨガなどを行うと、心が穏やかになります。普段の仕事中に疲れたと感じた際、目をつぶって腹式呼吸を行うとリラックスできます。簡単なストレッチなどで体のコリをほぐすのもよいでしょう。
また弊社リンクアンドモチベーションでは、セルフコントロール手法の1つとして「変えられること」と「変えられないこと」の整理をお伝えしています(選択理論心理学)。
風邪により頭が痛い、など悩んでも自分で解決できなことに目を向けるのではなく、解決するために薬を飲む、病院に行くなど、自分の力で解決できることに注力することで自分の気持ちを調整し、解決に向けて行動していくことができるでしょう。
今後企業が行うべきメンタルヘルス対策
2015年のストレスチェック制度の導入や、2020年のパワハラ防止法(通称)の施行により、職場で発生するストレスから従業員を守る取り組みはもはや「企業の義務」といえます。
こうした取り組みを積極的に行うことは、決して「義務としてやらなければならない面倒なこと」ではなく、健全な職場環境を創り、結果として職場の生産性の向上やエンゲージメント向上、そして好調な業績というメリットをもたらします。
最近では採用の際など、その人物がどのくらいストレスに耐性があるかを知るストレスコーピングのテストを実施する企業が増えてきています。
ストレスへの耐性やストレスに対処するための資質を診断することで、仕事で様々なストレスに遭遇した際に対処できるかを判断するのです。また従業員の資質として求めるだけではなく、企業の責任として従業員の心の健やかさを保つことは重要な命題です。
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企業にコーピングを導入する流れ
具体的に企業としてコーピングにどのように取り組むと良いか、見ていきましょう。
①メンター制度やカウンセリング窓口、ホットラインの設置
何かしらのストレスを抱えている現状は、誰か信頼のできる人に相談したり、愚痴として話してガス抜きをすることで初期段階では軽減することも可能です(比較的ストレス解消型コーピングに近しい対応とも言えます)。
具体的な取り組みとして、従業員が気軽に相談できる環境を整えることは、すぐに手を打つこともできるストレスマネジメントの基本であるといえるでしょう。
例えば、できないことの壁に直面し悩みやすい若手に対し、メンターやブラザーシスターとして先輩を相談相手とする体制構築をすることは、決して業務スキルの向上だけではなくストレスコーピングの目的も果たせます。
また気軽に相談できるカウンセリング窓口を設置する等の対策は、比較的取り組みやすいものですのでぜひ積極的に取り入れていきましょう。
ただしいずれの場合も、ある程度の専門性や「ストレスコーピングの機能」としての自覚やスキルが必要であり、下記②の能力開発や研修とあわせて行っていくべきでしょう。
②定期的な研修
誰かにコーピングやストレスマネジメントを依存するのではなく、本質的に自身がストレスに対応できるようになるということも重要です。そのため定期的な研修や勉強会を開催し、従業員にストレスマネジメントの教育をすることも有効でしょう。
ストレスコーピングやストレスマネジメントの手法のインプット、また知識として知るだけでなく日常的に使えるようになる訓練、そして日々の実践というサイクルを回すことが重要です。
従業員のストレス対処能が向上することは、飛躍的な生産性向上やエンゲージメント向上につながります。
また①で述べた通り、自身に対してどう取り組むか・活用するかだけでなく、指導者やカウンセリング窓口として「他者に対しどのようにコーピングを行うか」というトレーニングも必要不可欠でしょう。
※参考:レジリエンスとは?心が折れやすい人の特徴や鍛える方法を解説
③ストレスが生まれにくい職場をつくる
最後は、一朝一夕には実現できないかもしれません。ただ、従業員一人ひとりが、コーピングなどのストレスマネジメントの手法を体得・実施することにより、組織全体のストレス状態が改善することで、風通しが良く雰囲気も良い職場環境の構築を目指すべきです。
ストレスが低い状態でのびのびと仕事ができるのであれば、周囲の同僚ともスムーズに協働し、協力して仕事を進められるようになります。
そのためにも、ストレスの要因となりやすい項目のモニタリングを行いながら、定期的に職場のストレス状態やエンゲージメント状態を把握し会社として手を打ち続けていきましょう。
記事まとめ
いかがだったでしょうか?従業員のストレスコーピングやメンタルケアの取り組みは、企業の義務として重要度が非常に高まっています。
さまざまな法改正の流れもあり、企業としての取り組み姿勢は、社会的な注目を集める関心事となってきました。人材確保や会社のエンゲージメント向上、そして業績の発展などの観点からも、従業員のコーピングは非常に重要です。
ぜひ、自社における取り組み状況の確認や、導入を検討してみてください。
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