キャリア自律とは?注目される背景や企業が支援する方法などを解説
キャリア自律は、自らのキャリア構築とそのための学習を主体的に行うことです。テクノロジーの進化やテレワークの普及でキャリア自律が重要視されるようになり、企業には支援・促進が求められるようになりました。
この記事では、キャリア自律の概要やメリット、課題や促進方法について解説します。
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キャリア自律とは
アメリカのキャリア・アクション・センターの定義によると、キャリア自律は「変化する環境において、自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと」となっています。企業が主導してきた従来のキャリア開発とは違い、従業員が主体であることがポイントです。
キャリア自律では、従業員がキャリア開発の価値観を理解したうえで、目標や計画も自ら描き、周囲の資源を活用しながら学び続けなければなりません。特定のスキルを高めるだけにとどまらず、環境に柔軟に対応しながら、自分のキャリアを切り開いていくことが重要です。
キャリア自律の歴史
キャリア自律は、1980年代のアメリカで経済不況やリストラを背景に生まれた考え方です。1900年初期は企業主導のキャリア形成が一般的でしたが、1978年に心理学者のエドガー・シャインが「個人の価値観がキャリア選択に影響を与える」と提唱しました。
1990年代になると、シリコンバレーではフリーランスやパートタイムが主流となり、キャリア自律が必要とされるようになっています。2000年代以降はITの発展で多様な働き方が可能になったり、個人の価値観やライフスタイルが多様になったりなど、さらにキャリア自律が重要視されるようになりました。
自律と自立の違い
「自律」は外部の力に指示されることなく、自分をコントロールして物事を行うことです。他者のニーズも把握しつつ、調整しながら自己実現を図る状態を意味します。一方で「自立」は援助や支配を受けずに自分の力だけで判断・行動する状態です。
キャリア自律が注目されている背景
キャリア自律がこれほど注目されるようになったのは、なぜなのでしょうか。その背景として、以下の3点が考えられます。
労働人口の減少
日本では1998年に労働人口がピークを迎え、生産年齢人口に対する従属人口の割合が上昇する人口オーナスの状況です。もともと1970年代以降、日本の労働生産性は先進7か国中最下位になっていました。
日本がこれからも成長していくためには生産性を高める必要があり、キャリア自律の支援が注目されるようになっています。
あらゆる世代の活躍が必要
2015年になると「女性活躍推進」から、高齢人材や障害者なども含めた多様な人材が活躍できる「ダイバーシティ推進」へとシフトしています。年功序列のような日本型雇用も見直され、新卒でもスキルを持つ人材には高い初任給を設定する企業が増加しました。
ジョブ型雇用の導入で仕事内容や役割に応じた処遇にシフトし、個人が主体的にキャリアを選択する必要性が高まっています。
働き方の多様化
働く人の価値観が多様化したことで、家族との時間や余暇、ボランティアなど、仕事以外の自己実現も重視されるようになっています。近年はVUCA時代(変動・不確実・複雑・不透明)といわれ、企業は過去のやり方だけで従業員のキャリア開発を行うのは困難になりました。
多様な働き方や雇用形態、キャリアのニーズに対応し、対等な関係性を築くことで企業と従業員双方の成長を目指す必要があります。
キャリア自律支援のメリット
キャリア自律を支援することで得られるメリットは主に以下の3つです。それぞれ具体的に見ていきましょう。
生産性の向上
キャリア自律の支援で自律的な従業員が増えると、主体的に学習や経験を積んでくれるため、各自のスキルやキャリアの向上が図れます。従業員自ら成長を目指して行動するようになれば、生産性が向上して業務の効率化も進むでしょう。
自律的な行動がビジネスの活性化や新しいビジネスの創出を促すことで、社内の風土改革にもつながります。
スキルと能力の向上
キャリア自律の支援が効果を上げれば、従業員が自分で目標を設定して行動するようになるでしょう。従来のような一律の育成プログラムとは違い、キャリアを自律的に考えるようになると、従業員が自分の成長イメージや目標を描けるようになります。
エンゲージメントの向上
企業がキャリア構築を支援してくれれば、魅力を感じる従業員は増えるでしょう。従業員自身のキャリアビジョンと方向性が合致すれば、エンゲージメントの向上を見込めるだけでなくリテンションも高まります。
対外的にも、スキルアップ支援に力を入れている企業に対しては、評価が上がることが考えられ、口コミが広がれば優秀な人材の採用にも有利です。従業員が求めるポストや成長支援を提供することで、企業と従業員の双方に利益をもたらす関係を築けます。
キャリア自律支援の課題
キャリア自律支援を行うにあたり、いくつか課題があります。以下に挙げる3つの課題を踏まえておきましょう。
キャリア自律を促進する企業側の懸念
ビジネススクールへの派遣や副業を認める、ボランティアの機会を提供するなど、キャリア自律に積極的な企業がある一方、転職のリスクを懸念している企業もあります。また、従業員全員にキャリア意識が浸透し、主体的にキャリアを考えるとは限りません。
企業は従業員に考える機会を与え、求められている役割や期待を明確にすることが重要です。
上司の理解不足
従業員の自律意識が高まったとしても、上司の理解が不足していれば、現場で行動には移しにくいでしょう。部下のキャリアに上司が関心を寄せて支援する体制ができているのが理想ですが、まだまだ業績向上の支援に偏ることが多いかもしれません。
短期的な目標達成や実績評価に注目するだけで、キャリア自律の必要性を理解していない上司もいます。上司には長期的キャリアの重要性を理解したうえで、部下のキャリアを支援する意識やノウハウを習得し、上司自身がキャリアを描く状況を作るようにすることが求められます。
従業員へ浸透させることの困難さ
企業としては、30代の従業員には専門性を発揮しつつ業務に従事し、40代になれば事業の中心となる人材として活躍してほしいのではないでしょうか。
しかし、上司と部下の関係だけでは従業員が主体的に対応するのは難しく、組織的な課題がボトルネックとなることがあります。キャリア自律を実現するためには、組織全体で支援環境を整える必要もあるでしょう。
従業員のキャリア自律を支援する方法
ここからは従業員のキャリア自律を支援する具体的な方法を見ていきましょう。以下で6つの方法を紹介します。
キャリア研修
自己理解のアセスメントを用いると、自分の強みや価値観を客観的に把握するのに役立ちます。講師の指導を受けるとともに、参加者同士のグループダイナミクスによって、気づきを多く得られるのもポイントです。
アセスメントと組み合わせることで、1~5年先のキャリア形成も明確化できるでしょう。キャリア研修は世代ごとに実施し、継続的な支援を行いながら従業員が行動に移すよう促すことが重要です。
カウンセリング
キャリア研修の実施だけで不十分な場合は、定期的なカウンセリングも必要です。
キャリアカウンセリングを活用すれば、現実とのギャップを確認できます。コーチングを受けることで進行方向や次に取るべき行動も明確化・具体化できるでしょう。上司とのキャリア面談やメンター制度も同様の機会として、行動を促進するのに有効です。
副業や兼業の越境学習
従業員が自身の市場価値やエンプロイアビリティスキル(雇用される能力)があるのか理解するためには、副業や兼業など他の分野に触れてみるのも有効です。社外の人たちと交流し、ネットワークを構築することで、新たな視点やリソースを得られる可能性もあります。
学習機会の提供
社会人になってからの学びの場としては、大学院やビジネススクールなどがありますが、実際には時間的・経済的負担が大きいのではないでしょうか。社内スクールやワーキンググループ、NPO主催の勉強会やeラーニングなども学びの場としては有効です。
多様な学習機会を設けることで、選択肢が広がるでしょう。学び直しには、変化を受け入れる柔軟な姿勢も重要です。
状況の明確化
社内にどのような課題が存在しているのか特定するためには、リサーチを行う必要があります。主なリサーチ方法は以下の通りです。
・従業員エンゲージメントの測定
・従業員満足度の測定
・キャリア意識やキャリア自律度の測定
リサーチには信頼性のある尺度を用いてください。タレントマネジメントシステムの活用で、従業員の情報をデータベース化するのも有効でしょう。自己申告制度や社内公募制度、ジョブローテーション制度なども検討しつつ、キャリア開発の仕組みを設計することが重要です。
相談窓口の提供
キャリア自律を推進するためには、支援のための相談窓口を設置する必要もあります。キャリア研修と併用すると効果的でしょう。相談窓口では従業員に対して自律を促進するアドバイスができるうえ、キャリア形成を考える機会を提供することで意識変化の促進も可能です。上司は人事考課面談と分けて、キャリアフィードバックを行うようにしてください。
キャリア自律を支援するときの注意点
キャリア自律を促進してスキルアップすると、外部視点が増えて従業員が転職を考える可能性もでてきます。一方で、キャリア支援によって満足度が高まると、転職よりも現職に残留する意向が増すこともあるでしょう。社内公募制度などを設けて挑戦できる機会を提供し、従業員が活躍できる場を用意することが重要です。
ただし、企業にはさまざまな従業員が在籍しているため、全員がキャリア自律を望むとは限りません。帰属意識の低下やベテランと若手の意識差があったり、チームプレーの希薄化が懸念されたりすることもあります。起こり得る問題を想定し、組織全体の期待や役割を明確化したうえで対策を講じ、キャリア自律を支援することが重要です。
まとめ
キャリア自律は従業員が主体的にキャリアの構築や学習を行い、仕事への意味も見出すことです。1980年代のアメリカで生まれたキャリア自律は、2000年代以降の多様な働き方が進むなかで重要性が高まっています。
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