アンドラゴジーとは?5つの特徴と研修に取り入れる3つのポイント
アンドラゴジーとは、成人を対象とした学習理論です。近年、企業において重要視されています。
この記事では、効果的な研修を実施したい人事担当者に向けて、アンドラゴジーの内容や歴史をはじめ、導入のメリットや5つの特徴、研修に取り入れるポイントを解説するので、ぜひお役立てください。
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アンドラゴジーとは
アンドラゴジー(Andoragogy)とは、成人を対象とした学習理論です。成人が主体的に取り組む学習を基本としています。ギリシャ語で「成人」を意味する「aner」と「指導」を表す「agogus」を組み合わせた造語で、日本語では「成人学習」や「成人教育」などの意味で使われます。
もともと成人教育の設計に役立つことで注目されていましたが、現代では子どもの教育にも応用することで、学習を促進できることが認められています。
アンドラゴジーの歴史
アンドラゴジーは、ドイツで19世紀からある学習理論です。教師のアレクサンダー・カップが、成人学生への教育方法について述べる際に使ったといわれています。ヨーロッパで多くの人に知られるようになったきっかけは、1958年にドイツ人のフランツ・ペゲラー教授が発表した著書「アンドラゴジー入門‐成人教育の基本問題」です。
後にアメリカで、マルカム・ノールズが著書「成人教育の現代的実践―ベダゴジーからアンドラゴジーへ」で引用し、広く認知されています。
アンドラゴジーとペタゴジーとの違い
アンドラゴジーの対比としてよく挙げられるのが「ペタゴジー」です。ペタゴジーは、アンドラゴジーと同じくギリシャ語由来の用語で「paid」という言葉が子どもを意味しています。これに対し、アンドラゴジーでは「成人」を表す「agogus」が使われています。
アンドラゴジーは成人を対象とした教育理論であるのに対して、ペタゴジーは子どもを対象とした学習理論として理解されています。この2つは対照的な概念として扱われることが多く、アンドラゴジーは自主的で能動的な学びを促進する一方、ペタゴジーは教師からの指導を受ける受動的な学習が特徴です。
アンドラゴジーは企業の研修で活用されている
これまでに行われてきた企業研修は、講師が一方的に話して知識を与える方法が一般的でした。基礎知識や技術を学ぶうえでは効果的な研修ですが、どうしても受講者側は受動的になってしまいます。知識付与型の研修は、どちらかというとペタゴジー寄りの研修です。
しかし、近年は受講者が主体的に学んでいくアンドラゴジー寄りの研修を目指す企業が増えています。アンドラゴジーを意識した研修は、個人の成長目標に沿ったプランが組まれるため、従業員も積極的に取り組めるでしょう。スキル向上やキャリア発展の支援をすることで、実践的な目的の学習ができるようになり、個人も組織も成長できるチャンスが得られます。
アンドラゴジーが企業で求められる理由
海外発祥のアンドラゴジーが、なぜ今になって企業で求められているのでしょうか。主な理由は以下の2つです。
働き方が多様化している
近年は、大企業の倒産や働き方の多様化によって、従来の終身雇用制度が崩壊しつつあります。就職した企業で定年まで働き続けることが当たり前の時代ではなくなりました。人材が流動的になっているため、新人研修、中途社員研修、幹部研修など多くの研修を行う機会が増えています。
従来の知識付与型の研修ではなく、より効果的な研修とするための教育方法として、アンドロゴジーが注目されるようになりました。
労働人口が減少している
人口構造の変化によって、日本における少子高齢化は年々深刻化しています。後期高齢者が増加する一方で少子化が止まらず、労働人口も減少の一途をたどる一方です。企業にとって、必要な人材を確保するのが困難な時代になっています。
人材確保が難しい現代においては、従業員の生産性を向上させることが重要です。スキルアップ教育の手段として、従業員が主体的に取り組めるアンドロゴジーの考えが重要視されています。
アンドラゴジーを企業が取り入れるメリット
アンドラゴジーを取り入れることで企業が得られるメリットは、大きく分けて2つあります。
組織・従業員の成長が望める
アンドラゴジーを活用すれば、組織や従業員の成長に貢献できます。従業員それぞれの目標やキャリアに合わせた学習支援をすることで、スキルアップや能力開発につながるでしょう。また、研修によって従業員同士の交流が生まれ、コミュニケーションも活性化します。
コミュニケーションが活発になると連携がより強化され、良好な組織風土の土台づくりにも効果的です。学習文化があり、組織風土も良好になれば従業員の定着率も向上します。
生産性向上につながる
アンドラゴジーは、従業員個人にとっても必要な知識やスキルが効果的に習得できるチャンスです。アンドラゴジーは、研修者の経験や関心に基づいて学習内容を設計し、グループで学ぶ際には、自分の経験に基づいた知識やスキルをシェアすることで、互いの学びを深めます。
研修を受けることで、自分の業務や課題に応用できる知識やスキルを取得できれば、各自のスキルアップも期待できるでしょう。従業員のスキルアップは、結果的に組織の生産性向上にもつながります。
アンドラゴジーの5つの特徴
アンドラゴジーは、成人学習の理論として以下のような特徴を持っています。
・自己概念
・経験
・レディネス
・方向付け
・動機付け
それぞれの特徴について、くわしく解説していきます。
自己概念
自己概念とは「どのような人間であるか」という問いに対して、自分自身について抱く信念や考え方を指す心理学的な用語です。人は成長すると「自分自身を管理できる」という自己概念が強くなる傾向にあります。
学習においても、教えられたことを受動的に学ぶペタゴジーのような教育方法は、自己概念と対立しやすいのが特徴です。自己概念が確立されていると「勉強させられている」というような抵抗感を生む可能性があります。成人教育を行う際は、学習する人が主体的になって取り組めるように設計しなければなりません。
経験
人は年齢を重ねるにつれ、成功や失敗を含めた多様な経験を積み、経験値が自然と増していきます。成人教育においては、これまでに得た知識やスキルを土台とし、ゼロから学ぶよりも効率的な学習が可能です。グループで学ぶ際には、各自の成功体験やそこから得た知識を共有し合うことで、お互いの理解を深めることができます。
子どもを対象としたペタゴジーでは、学習者が成人のような経験を十分に持っていないため、経験に基づいた学びがほとんど行われません。個人の経験量が少ないので、活用しても大きな効果が得られないとされています。
レディネス
レディネスは心理学の概念で、学習に必要な条件、心身の準備、環境が整うことで学習を始める準備ができている状態を指します。成人教育においては、学習者の職業・役職・職位などに注目し、学習者の現状や課題を把握した学習内容を設計することが大切です。レディネスを高めることができれば、学習者の満足度も向上します。
一方、ペタゴジーでは年齢やカリキュラムに注目して学習内容を決めることが多いため、個別の状況はあまり考慮されず、一定の年齢に応じて学習内容が決められます。
方向付け
方向付けは「なぜ学習を行うのか」という目的を重視する考え方です。学習者には、知識を得てスキルを実際に活用し、直近の課題解決につなげたいという強い思いがあります。
アンドラゴジーでは、学習者の目的を明確に把握し、逆算して学習内容を設計することが重要です。学習したことを現実の課題解決に活かす場を提供し、学習者が自主的に学習計画を立てられるよう支援することで効果を高められます。
ペタゴジーでは、主に「学習内容を理解する」ことや「テストで高得点を取る」ことが目的となりやすく、実生活への応用はあまり重視されません。
動機付け
アンドラゴジーでは、成人の学習者は「外発的動機」よりも「内発的動機」に基づいているという前提があります。
外発的動機とは、お金・報酬・罰則・叱責など外部からの動機です。内部的動機とは、趣味・趣向・関心・願望などの人の内面からの動機を指します。成人の学習を支援する際は、学習者の内発的動機を引き出すことが有効です。
学習者の興味や関心に合わせた学習内容を提供し、学習の成果を実感できる機会を設けましょう。ペタゴジーでは「テストで高得点を取って親や先生に褒められたい」「テストで悪い点を取って親や先生に叱られたくない」という外発的動機で学習に参加するケースが多い傾向があります。
アンドラゴジーを研修に取り入れる3つのポイント
アンドラゴジーを企業の研修に取り入れる際は、先述した5つの特徴を意識しながら、以下のポイントを意識してみましょう。
ワークショップ形式で主体性を持たせる
アンドラゴジーの「自己概念」に基づいて研修を設計する場合は、参加者が主体性を持って学ぶことが効果的とされています。受動的になりやすい講義形式の座学よりも、主体的に取り組めるワークショップ形式の方が効果的といえるでしょう。経験や関心に基づいた学習内容を設定し、実際の業務を想定したケーススタディなどを取り入れてみましょう。
ポジションが同じ人でディスカッションする
アンドラゴジーの特徴のうち「経験」を活用するのも効果的です。同じポジションの人同士で、成功体験や得た知識を共有し合いながらディスカッションしてみましょう。同じポジションの人でも、それぞれ違う経験をしているので、シェアすることで新たな学びが得られます。
研修の目的を事前に周知する
アンドラゴジーの特徴である「動機付け」で解説したように、成人教育においては「なぜこの研修を実施するのか」「どのような目的で研修を受けるのか」という目的が重要になります。
研修によって得られる効果が事前に周知されていれば、参加者は目的意識を持って学べるでしょう。反対に強制参加させられる研修では、目的意識を持てず意欲的な学習ができません。
まとめ
企業が研修などでアンドラゴジーを活用すれば、従業員が主体的に取り組むことができます。従業員の成長はもちろんのこと生産性向上につながり、組織の成長にもつながるでしょう。
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