ムーンショット計画って?目標や生活の変化について解説 | リンクアンドモチベーション(組織開発・人材育成・研修)
ムーンショット計画とは、内閣府主導で推進されている「日本発の破壊的イノベーションの創出を目指した大型研究プログラム」です。ムーンショット計画の語源は、ジョン・F・ケネディ大統領の月面着陸プロジェクト(アポロ計画)であり、現在では「実現できれば非常に大きなイノベーションが生まれる壮大な計画」という意味で、ビジネスシーンなどでも使われるようになっています。今回は、内閣府が掲げるムーンショット計画を中心に解説していきます。
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内閣府が掲げるムーンショット計画とは?
ムーンショット計画(ムーンショット型研究開発制度)は、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラムのことで、内閣府の主導によって様々な取り組みが進められています。
ムーンショット目標とは?いつから?
ムーンショット計画では、人々の幸福(Human Well-being)の実現を目指す「ムーンショット目標」が掲げられています。まず、第48回総合科学技術・イノベーション会議(2020年1月23日開催)において、6つのムーンショット目標が決定されました。その後、2021年7月14日、9月28日の会議でも目標が追加され、合計9つのムーンショット目標が掲げられています。
そもそもムーンショットの語源は?
ムーンショットは、米国大統領だったジョン・F・ケネディが発表した月面着陸プロジェクト(アポロ計画)が語源になっています。アポロ計画は、「1960年代が終わる前に月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」という計画で、ケネディ大統領が1961年に宣言しました。これは前代未聞の挑戦でしたが、1969年に実現しています。そのことから、「ムーンショット」という言葉は「極めて困難だが、実現できれば非常に大きなイノベーションが生まれる壮大な計画」という意味で、ビジネスシーンなどでも使われるようになっています。
ムーンショット計画の背景
数多くの社会問題を解決する必要がある
日本は、少子高齢化の進展や大規模自然災害への備え、地球温暖化問題への対処など、数多くの困難な社会課題を抱えています。このような社会課題を解決するため、科学技術が果敢に挑戦し、未来社会の展望を切り拓いていくことが求められています。
諸外国に後れをとっている
海外においても様々な社会課題が山積していますが、欧米や中国では破壊的イノベーションの創出を目指し、これまでの延長では想像もつかないような野心的な構想を掲げ、日本とは桁違いの投資規模でハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を強力に推進しています。諸外国に比べると、日本は後れをとっていると言わざるを得ない状況です。
このような背景から、日本発の破壊的イノベーションを創出し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進するため、ムーンショット計画(ムーンショット型研究開発制度)が立ち上げられました。
9つのムーンショット目標
目標①2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
ムーンショット計画では、人の能力拡張により、若者から高齢者までを含む様々な年齢や背景、価値観を持つ人々が多様なライフスタイルを追求できる社会の実現を目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する」ことをターゲットに設定しています。
目標②2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
ムーンショット計画では、従来のアプローチで治療方法が見いだせていない疾患に対し、新しい発想の予測・予防方法を創出し、慢性疾患等を予防できる社会の実現を目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、臓器間の包括的ネットワークの統合的解析を通じて疾患予測・未病評価システムを確立し、疾患の発症自体の抑制・予防を目指す」ことをターゲットに設定しています。
目標③2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
ムーンショット計画では、ゆりかごから墓場まで、人の感性、倫理観を共有し、人と一緒に成長するパートナーAIロボットを開発し、豊かな暮らしを実現することを目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、人が違和感を持たない、人と同等以上な身体能力をもち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する」ことをターゲットに設定しています。
目標④2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
ムーンショット計画では、温室効果ガスや環境汚染物質を削減する新たな資源循環の実現により、人間の生産や消費活動を継続しつつ、現在進行している地球温暖化問題と環境汚染問題を解決し、地球環境を再生することを目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、資源循環技術の商業規模のプラントや製品を世界的に普及させる」ことをターゲットに設定しています。
目標⑤2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
ムーンショット計画では、地球規模でムリのない食料生産システムを構築し、有限な地球資源の循環利用や自然循環的な炭素隔離・貯留を図ることにより、世界的な人口増加に対応するとともに地球環境の保全に貢献することを目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、微生物や昆虫等の生物機能をフル活用し、完全資源循環型の食料生産システムを開発する」ことをターゲットに設定しています。
目標⑥2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
ムーンショット計画では、量子コンピュータを含む量子技術を応用し、様々な分野で革新を生み出し、知識集約型社会へのパラダイムシフトや既存の社会システムを変革することを目指しています。そのために、たとえば「2050年頃までに、大規模化を達成し、誤り耐性型汎用量子コンピュータ(※)を実現する」ことをターゲットに設定しています。
※大規模な集積化を実現しつつ、様々な用途に応用する上で十分な精度を保証できる量子コンピュータ。
目標⑦2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
ムーンショット計画では、一人ひとりが将来の健康状態を予測しながら、健康な生活に自発的に取り組むことができるとともに、日々の生活のあらゆる導線に、健康に導くような仕掛けが埋め込まれている社会の実現を目指しています。そのために、「日常生活の中で自然と予防ができる社会の実現」「世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワークの実現」などをターゲットに設定しています。
目標⑧2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
ムーンショット計画では、台風や豪雨の高精度予測と能動的な操作を行うことで極端風水害の被害を大幅に減らし、台風や豪雨による災害の脅威から解放された安全安心な社会の実現を目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨の強度・タイミング・発生範囲などを変化させる制御によって極端風水害による被害を大幅に軽減する」ことをターゲットに設定しています。
目標⑨2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現
ムーンショット計画では、人々の寛容性が高まり、人生に生きがいを感じ、他者と感動・感情を共有し、様々なことに躍動的にチャレンジできる社会の実現を目指しています。そのために、たとえば「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大し、こころ豊かな状態を叶える技術を確立する」ことをターゲットに設定しています。
ムーンショット計画によってどんな変化がある?
働き方が変わる
ムーンショット計画のなかでも、特にムーンショット目標の①や③の実現によって、私たちの働き方は大きく変わるはずです。すでに、工場や倉庫などではロボットの活用が始まっていますが、AIを搭載した高性能なロボットが普及すれば、工場や倉庫以外の業務もロボットが担うようになるでしょう。定型作業や繰返し作業などをロボットが担うようになれば、人間はロボットの操作や管理をおこなうことになります。一人の人間が複数のロボットを同時に操れるようになれば、労働力不足の解消につながるでしょう。
コロナ禍によってテレワークが一般化していますが、自動ロボットが高精度化したり、ロボットの遠隔操作が可能になったりすれば、今以上にテレワークが拡大するはずです。現在は出社せざるを得ない仕事・職種でも、モニターを見ながらロボットを遠隔操作できるようになれば、自宅で仕事をするのが当たり前のことになります。地理的な制約もなくなるため、仕事選びや会社選びの自由度も大幅に拡大するでしょう。
生活が変わる
ムーンショット計画が描く未来では、人々はロボットやAIを搭載した家電とともに生活するようになります。すでに、お掃除ロボットやスマートスピーカーは一般家庭に普及していますが、ムーンショット計画が実現されれば、自ら思考し、人間の生活を助けるロボットが続々と登場するはずです。家事ロボットや育児ロボット、介護ロボットなどと共存するようになれば、人々のライフスタイルは大きく変化し、生活はより豊かなものになっていくでしょう。
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ムーンショットにおける重要なキーワード
ムーンショット、あるいはムーンショット計画と呼ばれるものには、以下の3つの要素が必要だと言われます。
Inspiring(人々を魅了する)
・目的や緊要性が明確に理解されるもの
・困難だが、実現すれば将来の産業・社会に大きなインパクトが期待されるもの
・多くの人々や海外と価値観を共有できるもの
Imaginative(創意にあふれ斬新である)
・未来の社会システムの変革を目指すもの
・多くの人々が、テクノロジーが切り拓く未来の可能性を明確にイメージできるもの
Credible(信憑性がある)
・野心的であるが、科学的に実現可能性を語り得るもの
・達成状況が検証可能なもの
・既存の関連する戦略や施策の方向性と整合的であり、それらの成果も統合的に活用できるもの
ムーンショットな目標設定におけるポイント
上述のとおり、アポロ計画のように「困難であるが、実現できれば非常に大きなイノベーションが生まれる壮大な計画」はムーンショットと呼ばれます。たとえば、新型コロナウイルスのワクチンを短期間で開発したファイザーの取り組みや、自動運転技術やロボットなどの実証実験をおこなう未来都市としてトヨタが建設した「Woven City」などは、ムーンショットな取り組みだと言われます。
イノベーティブな成果を生み出すためには、ムーンショットな目標設定が必要です。ムーンショットな目標設定をする際は、以下の3点が重要になってきます。
視点を高く持つ
ムーンショットな目標は、簡単に実現できるものではいけません。従来の活動の延長線上にあるような目標は、ムーンショットな目標とは言えません。視点を高く持ち、想像を超える革新をもたらすような目標を立てることが重要です。
常識にとらわれない
常識にとらわれていたら、ムーンショットな目標設定はできません。既存の枠を取り払って、考え方を大きく飛躍させる必要があります。型にはまらない発想で、前例のないような目標を設定しましょう。
チームで挑む
一人で達成できるような目標はムーンショットな目標とは言えません。チーム全員が情熱を持って、夢中になって取り組まなければ達成できないような目標を掲げるべきです。部署や会社という枠組みにとらわれずに必要な人材を集め、一体感を持って挑んでいきましょう。
まとめ
ムーンショット計画は現実味がないと感じる人もいるかもしれませんが、基礎研究や先端技術を支援していく取り組みは非常に大きな社会的意義を持っています。引き続き、内閣府のムーンショット計画の動向に注視していきましょう。
ムーンショット計画に関するよくある質問
Q:サイバネティック・アバターとは?
サイバネティック・アバターは、身代わりとしてのロボットや3D映像などを示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力、および知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念のことです。ある意味、「新しい身体」とも言えるもので、人々がサイバネティック・アバターを得ることで、身体の制約を超えて自由に活動できるようになる社会が実現します。ムーンショット目標①では、「サイバネティック・アバター基盤の構築」をターゲットに設定しています。
Q:OKRとムーンショットの関係性は?
OKR(Objectives and Key Results)は、米国のインテル社が開発した目標管理手法です。OKRでは、企業のビジョンに基づいて達成するのが難しいほど高い目標を設定し、すべての従業員が一丸となって目標達成を目指すことで組織の生産性を高めていきます。そのため、OKRでは、ムーンショットを意識したチャレンジングな目標を設定するのが良いと言われています。
OKRについては以下の記事で詳しく解説しています。
>> OKRとは?Googleも採用する効果的な運用方法を解説
https://solution.lmi.ne.jp/column/6502
※参考:ムーンショット型研究開発制度 - 科学技術・イノベーション - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
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