給与所得とは?給与収入との違いや所得控除について解説
給与所得控除とは、会社員にとっての必要経費を給与所得から差し引く制度のことです。給与・賞与などの収入額から給与所得控除額を差し引いた金額が給与所得であり、所得税額を算出するベースになります。今回は、給与所得・給与所得控除の基礎知識や、所得税額の算出方法などについて分かりやすく解説していきます。
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給与所得とは?
給与所得とは、給与・賞与などの収入額から給与所得控除額を差し引いた金額のことです。給与所得の求め方を式で示すと、以下のようになります。
給与所得 = 給与収入 - 給与所得控除額
給与所得の該当範囲
給与所得には、俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、手当や現物給与も含まれます。手当の具体例としては、残業手当や休日出勤手当、職務手当のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当などが挙げられます。現物給与とは、金銭以外で支給される給与のことです。食事の現物支給や商品の値引き販売のほか、次に掲げるような経済的利益も含まれます。
(1)物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡したことによる経済的利益
(2)土地、家屋、金銭その他の資産を無償または低い対価により貸し付けたことによる経済的利益
(3)福利厚生施設の利用など(2)以外の用役を無償または低い対価により提供したことによる経済的利益
(4)個人的債務を免除または負担したことによる経済的利益
※参考:No.2508 給与所得となるもの|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm
給与所得と給与収入の違い
給与収入とは、給与や賞与を合計した金額のことです。何も差し引かれていない純粋な総収入と言えます。一方で、給与所得は上述のとおり、給与収入から給与所得控除額を差し引いた金額のことです。
給与所得控除とは?
給与所得控除とは、給与所得者の収入から諸経費として一定額を差し引く制度のことです。給与所得控除は、よく「会社員にとっての経費」であると説明されます。
自営業者にとって経費とは、売上をあげるために必要な費用のことですが、会社員も業務を遂行するために必要な費用があるはずです。このような会社員にとっての経費を考慮した控除制度が給与所得控除です。
自営業者は、確定申告で所得税を納めるとき、売上から経費を差し引いて所得額を算出します。給与所得控除もこれと同じ考え方で、給与所得者の給与収入から経費を差し引いて給与所得を算出します。このようにして算出した給与所得をベースに課税所得を求め、所得税額を計算していくのです。
給与所得控除の控除額
給与所得控除額(令和2年分以降)は以下のとおり、給与等の収入の金額に応じて控除額が決められています。
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
1,625,000円まで |
550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 |
収入金額 × 40% - 100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 |
収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 |
収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 |
収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円以上 |
1,950,000円(上限) |
給与所得控除の控除額が引き下げられた背景
給与所得控除の控除額は、ここ数年で段階的に引き下げられています。その背景としては、給与所得者の実際の勤務関連支出に比べ、控除額が高額になっていたことが挙げられます。加えて、主要国との比較においても控除額が過大となっていたため、中長期的に主要国並みの水準とすべく控除額が引き下げられ、現在に至っています。
所得税の納税額の計算方法
所得税の納税額は、基本的に以下の手順で算出します。
①給与所得を求める
給与所得 = 給与収入 - 必要経費(給与所得控除・特定支出控除)
②課税所得を求める
課税所得 = 給与所得 - 所得控除・所得金額調整控除
③所得税額を求める
所得税額 = 課税所得 × 税率
④納税額を求める
納税額 = 所得税額 - 税額控除(住宅ローン控除など)
一連の流れにおいてポイントになる「所得控除」「所得金額調整控除」「特定支出控除」についてご説明します。
給与所得から差し引く「所得控除」
給与所得控除と混同しがちな制度として「所得控除」がありますが、両者はまったくの別物です。所得控除は、納税者本人や扶養親族の個人的事情に応じて所得税の負担を軽減する制度です。所得控除は、以下の15種類があり、それぞれの条件を満たす場合に一定額を給与所得から控除することができます。
雑損控除 |
医療費控除 |
社会保険料控除 |
小規模企業共済等掛金控除 |
生命保険料控除 |
地震保険料控除 |
寄附金控除 |
障害者控除 |
寡婦控除 |
ひとり親控除 |
勤労学生控除 |
配偶者控除 |
配偶者特別控除 |
扶養控除 |
基礎控除 |
給与所得控除は無条件に適用されますが、所得控除は原則として、年末調整の際に従業員が申請しなければ適用されません。ただし、雑損控除、医療費控除、寄附金控除に関しては年末調整の手続きでは控除できないため、適用を受けるためには確定申告をする必要があります。
代表的な所得控除についてご説明します。
社会保険料控除
社会保険料控除とは、自分自身の社会保険料(国民年金、国民健康保険、健康保険、厚生年金保険など)を支払ったとき、または、配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を支払ったときに受けられる所得控除です。
▼社会保険に関する記事はこちら
社会保険とは?加入条件や雇用保険との違い、メリット・デメリットを解説!
生命保険料控除
生命保険料控除は、生命保険料や介護保険料などを支払ったときに受けられる所得控除です。
地震保険料控除
地震保険料控除は、地震保険料などを支払ったときに受けられる所得控除です。
配偶者控除
配偶者控除とは、一定以下の所得金額の配偶者がいる納税者が受けられる所得控除です。控除対象になる配偶者は、以下の4つをすべて満たす人です。
①民法の規定による配偶者であること
②納税者と生計を一にしていること
③年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)であること
④青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと
配偶者控除の控除額は納税者の合計所得金額によって変わりますが、上限は48万円です。なお、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えている場合は、配偶者控除を受けることはできません。
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給与所得から差し引く「所得金額調整控除」
所得金額調整控除は、子育て世帯や介護世帯の負担軽減を目的とした制度です。一定の給与所得者の総所得金額を計算する際に、給与所得から一定金額を控除することができます。所得金額調整控除は「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」と「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」の2種類があります。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で、以下のいずれかに該当する人が対象になります。
・本人が特別障害者に該当する者
・年齢23歳未満の扶養親族を有する者
・特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する者
控除額は以下の算式によって求めます。
{給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円) - 850万円} × 10%
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除は、その年分の給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額がある給与所得者で、その合計額が10万円を超える人が対象になります。
控除額は以下の算式によって求めます。
{給与所得控除後の給与等の金額(10万円超の場合は10万円) + 公的年金等に係る雑所得の金額(10万円超の場合は10万円)} - 10万円
※参考:No.1411 所得金額調整控除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1411.htm
給与収入から差し引く「特定支出控除」
給与所得控除は、給与等の収入金額に応じて控除できる金額が決められていますが、なかには、実際に経費として使った金額が給与所得控除額を上回るケースもあるはずです。そのような場合を想定して設けられているのが、「特定支出控除」という制度です。
特定支出控除は、実際に経費として使った金額が給与所得控除額の半分を超えている場合、上回った金額が必要経費として認められ、収入から控除することができます。特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告をおこなう必要があります。
特定支出とは、具体的に以下のような支出のことです。
通勤費
一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出。定期代、バス代、電車代など。
職務上の旅費
勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出。
転居費
転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出。
研修費
職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出。
資格取得費
職務に直接必要な資格を取得するための支出。
帰宅旅費
単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出。
勤務必要経費
図書費、衣服費、交際費などの支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明されたもの。
※参考:No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm
給与所得に関係する書類
給与所得者の基礎控除申告書
給与所得者の基礎控除申告書は、年末調整で基礎控除を受けるために必要な書類です。提出しないと、源泉所得税の還付がある場合でも、還付金を受け取ることができません。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書とは、扶養控除を受けるために、扶養親族に関する申告をする書類です。配偶者控除や扶養控除、障害者控除、寡婦控除・寡夫控除、勤労学生控除などの控除を受ける場合は、この書類が必要になります。
給与所得者異動届出書
給与所得者異動届出書とは、退職や死亡などの理由によって従業員が給料の支払いを受けなくなるときに、その旨を届け出るための書類です。
まとめ
給与所得控除や所得控除などは、たびたび法改正がおこなわれます。給与計算や年末調整の担当者様は、常に最新情報の収集を怠らないようにしましょう。年末調整に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
>> 年末調整とは?確定申告との違いや手続き方法について解説!
コンサル2_年末調整とは へリンク
一方、給与所得者からすると年末調整は会社がやってくれる手続きですが、本編でご説明したとおり、雑損控除や医療費控除、寄附金控除を受けるためには、自分で確定申告をしなければなりません。正しく納税できるよう、基本的な知識と確定申告の方法は理解しておきましょう。
給与所得に関するよくある質問
Q:手取りと所得の違いは?
A:所得(給与所得)とは、給与・賞与などの収入額から給与所得控除額を差し引いた金額のことです。所得からさらに税金や社会保険料を引いた金額が、いわゆる「手取り」と呼ばれる金額です。給与明細においては一般的に「差し引き支給額」と記載されます。
Q:源泉徴収票はいつまでに発行すべき?
A:源泉徴収票とは、その年1年間に支払われた給与や賞与、手当などの金額や、納めた所得税の金額がまとめて記載された書類のことです。会社は、対象年の翌年の1月31日までに源泉徴収票を従業員に交付しなければいけません(年の途中で退職した従業員には、退職日から1ヶ月以内に交付しなければいけません)。なお、アルバイトやパートに対しても源泉徴収票を交付する義務があります。
▼【リンクアンドモチベーションの新入社員研修の特徴】が分かる資料はこちら