
有給休暇の付与日数とは?正しい計算方法や取得義務について解説!
御社は従業員に正しく有給休暇を付与できていますか? 有給の付与・取得に関するルールは複雑で、正社員とアルバイト・パートでは計算方法も異なります。また、2019年の法改正によって従業員の有給休暇消化が義務化されました。
あらためて、年次有給休暇の仕組みや管理方法について確認しておきましょう。
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目次[非表示]
- 1.年次有給休暇とは
- 2.有給休暇の発生要件
- 3.有給休暇の付与日数
- 4.年5日の有給休暇取得の義務化
- 5.有給休暇付与日数を算出する際の注意点
- 6.有給休暇の消滅時効と買い取り
- 7.有給休暇の管理を効率化する方法
- 8.まとめ
年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために、一定期間勤続した従業員に対して付与される休暇のことです。年次有給休暇を付与された従業員は「有給」で休むことができます。
つまり、「休んでも賃金が減額されない休暇」が年次有給休暇ということです。企業には、一定の条件を満たした従業員に年次有給休暇を付与することが義務付けられており、パートやアルバイトなど、所定労働日数が少ない従業員にも年次有給休暇は付与されます。
また、年次有給休暇は、基本的に従業員が請求する時季に与えなければいけません。しかし、従業員が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に年次有給休暇を与えることができます。これを年次有給休暇の「時季変更権」と言います。
■有給休暇を取得するメリット
有給休暇の概要を理解していただいたところで、有給休暇のメリットについて説明したいと思います。
有給休暇を取得するメリットとして心身の疲労を回復し、ゆとりのある生活を保障することで企業と従業員のエンゲージメントを高めることがあげられます。例えば、それは心理学者アブラハム・マズローが発表した「マズローの欲求階層説」からも証明されています。
マズローの研究には「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」という考え方が根底にあります。精神病理を解明する精神分析に対して、人間の肯定的な側面に注目した点が特徴です。
マズローは人間が行動を起こす理由(動機)として大きく5つの欲求があると考えました。それらが「空腹を満たしたい(生理的欲求)」「安全な場所に住みたい(安心の欲求)」「家族・友人と親しくありたい(社会的欲求)」「仲間に自分の実力を認められたい(自尊の欲求)」「自分の能力を活かしてさらに成長したい(自己実現の欲求)」の5つです。
この説の重要なポイントは、5つの欲求は階層構造にあり、生理的欲求や安心の欲求など低次の欲求が満たされると、一段階上の欲求が高まり、その欲求を満たすための行動を起こすようになるということです。
つまり、生理的欲求や安心の欲求が満たされない限り、社会的欲求など起きにくくなるため、企業に所属して働きたいという気持ちが起こりにくくなくなります。
企業としても事業を通して意欲的に社会的貢献に取り組んでもらうためにも有給を付与し、心身の健康を保つことが従業員とのエンゲージメントを高めることに繋がります。
また、エンゲージメントという切り口で言うと、有給休暇は別の観点でも整理することが可能です。
以下の図は、企業が従業員に提供する魅力要因である「4つのP(社会心理学)」と言われるものです。頭文字がPから始まる、「ビジョン」「活動内容」「構成員」「特権」に分類される魅力によって、従業員は企業から魅力を感じると言われています。
この観点で言うなれば、有給休暇は「制度待遇」に関する魅力に当たります。
この観点からも、従業員のエンゲージメントに関する項目の一翼を担っている「制度・待遇」の要素を高めることが出来れば、従業員エンゲージメントの向上に繋げることも可能です。
■有給休暇を取得するデメリット
一方で有給休暇取得にデメリットがあるとするならば、会社の費用負担が挙げられます。
「休日」とは異なり有給休暇の場合は給与支払いが発生するため、労働していない際の給与支払いによる人件費負担が、企業にとってはデメリットと言えるでしょう。
また、仮に職場の中で同一タイミングで有給所得をした場合は、職場の業務負担が一時的に高くなることも考慮に入れておけると良いでしょう。誰が、どのタイミングで何日間の有給を所得するかどうかを、職場内で共有がされていることが好ましいと言えます。
■半日休暇や時間単位年休との違いとは?
年次有給休暇と合わせて理解しておきたいのが、「半日休暇」と「時間単位年休」です。
半日休暇とは、企業が従業員に半日単位で付与する休暇のことです。半日休暇は年次有給休暇と違い、法律によって義務付けられているものではなく、企業が任意で導入する休暇です。従業員の柔軟な働き方をサポートするため、「午前休」「午後休」などとして半日休暇を導入する企業が増えています。
時間単位年休とは、年次有給休暇のバリエーションの一つで、時間単位で付与する年次有給休暇のことを言います。
年次有給休暇は原則として1日単位で付与するものですが、就業規則に記載するとともに労使協定を締結すれば時間単位で付与することもできます。ただし、時間単位年休は年5日が上限となっています。
時間単位年休の詳細は厚生労働省のリーフレットでご確認ください。
参考: 時間単位の年次有給休暇制度導入促進リーフレット|厚生労働省
有給休暇の発生要件
企業は業種・業態にかかわらず、また正社員・パートタイムなどの区分なく、一定の要件を満たしたすべての従業員に対して年次有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇が発生する条件は以下のとおりです。
- 雇入れの日から6ヶ月継続して雇われている
- 全労働日(所定労働日数)の8割以上を出勤している
この2点を満たしている従業員には、年次有給休暇を与える必要があります。
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有給休暇の付与日数
年次有給休暇の付与日数は法律で定められています。フルタイムの従業員と所定労働日数が少ないパート・アルバイトでは、有給休暇の付与日数が異なるため注意が必要です。
■原則となる有給休暇付与日数
フルタイムで働く従業員の場合、入社してから6ヶ月以上勤続し、その6ヶ月の全労働日の8割以上を出勤していれば、10日の年次有給休暇を付与する必要があります。また、以下のとおり、勤続期間に比例して付与すべき年次有給休暇の日数は増加していきます。
■所定労働日数が少ない従業員に対する有給休暇付与日数
パートやアルバイトなど所定労働日数が少ない従業員の場合、年次有給休暇は所定労働日数に応じて比例付与されます。対象になるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下、または年間の所定労働日数が216日以下の従業員です。
・週の所定労働日数が4日(年間の所定労働日数:169日~216日)の場合
・週の所定労働日数が3日(年間の所定労働日数:121日~168日)の場合
・週の所定労働日数が2日(年間の所定労働日数:73日~120日)の場合
・週の所定労働日数が1日(年間の所定労働日数:48日~72日)の場合
年5日の有給休暇取得の義務化
■ポテンシャル採用とは
2019年3月までは、従業員に年次有給休暇を取得(消化)させることについて、企業側に義務はありませんでした。しかし、労働基準法の改正により、2019年4月以降は「年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に年5日の有給休暇を取得させること」が義務付けられました。
フルタイムで働く従業員の場合、有給付与日数は「10日」からスタートするのでこの義務の対象になります。パート・アルバイトなど、所定労働日数が少ない従業員も勤続期間によっては10日以上の有給休暇が付与されるため、その場合は対象になります。
また、管理監督者や有期雇用労働者もこの義務の対象になります。管理監督者に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
参考:管理監督者とは?定義と役割、管理職との違いについて解説!
年5日の有給休暇取得が義務化された背景としては、有給休暇取得率の低さがあります。かつての日本企業は、年次有給休暇が付与されてもそれを使いにくい(取得しにくい)という企業風土があり、それが過重労働を招く原因にもなっていました。昨今は、適切に有給休暇を取得させることによって、従業員の健康維持やワークライフバランスの実現をサポートしようという企業が増えています。実際に、令和2年の年次有給休暇の平均取得率は56.6%で、昭和59年以来過去最高の数値になっています。
有給休暇付与日数を算出する際の注意点
有給休暇の付与日数を間違えるなどのミスがあると、従業員の信頼を失うだけでなく、罰則が科せられるリスクもあります。ミスが起こらないよう、有給休暇付与日数を算出する際のルールや計算方法は正確に理解しておきましょう。
■年次有給休暇は繰越しができる
従業員は付与された有給休暇を付与された年にすべて取得する必要はなく、翌年度へ繰越しすることができます。ただし、繰越しができるのは1年間だけで、それ以降の繰越しはできません。
■育児や介護などによる休業期間は出勤したものとみなされる
年次有給休暇の発生要件である「出勤率が8割以上かどうか」を判断する際、もし従業員が以下の理由によって休業している期間があっても、その期間は出勤したものとしてみなさなければいけません。
- 業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のために休業した期間
- 育児休業、介護休業をした期間
- 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業した期間
従業員がこれらの理由で休んだ日があっても、出勤日数からマイナスする必要はないということです。
■従業員によって異なる基準日を統一することができる
年次有給休暇を付与するタイミングは、基本的にその従業員の入社日を基準日として決定します。しかし、中途入社の従業員が多い会社などは従業員ごとに入社日が異なるため、「誰がいつまでに有給を5日取得しなければならないのか?」など、有給休暇の管理が煩雑になります。
これを避けるために、基準日を月初や年度始めに統一することが認められています。このように年次有給休暇を付与するタイミングを統一することを「斉一的取扱い」と言います。斉一的取扱いをすることで有給管理の負担が軽減され、ミスの防止につながります。
・基準日を年始や年度始めに統一する場合
人員規模の大きな会社や新卒一括採用をしている会社などは、基準日を年始(1月1日)や年度始め(4月1日)に統一することができます。
・基準日を月初などに統一する場合
中途採用をおこなっている会社や比較的小規模な会社などは、基準日を月初などに統一することができます。たとえば、月の途中に入社した従業員がいても、同じ月に入社した従業員全員の基準日を月初に統一することで管理の負担が軽減されます。
なお、基準日を変更する場合は必ず前倒しにする必要があり、後ろ倒しにすることはできません。また、会社の判断だけで基準日を変更することはできません。あらかじめ労使間で合意したうえで就業規則を変更し、全従業員へ周知する必要があります。
■出勤率が8割に満たなかった年も勤続期間に含まれる
上述のとおり、雇入れの日から6ヶ月継続して雇われており、全労働日の8割以上を出勤している従業員には年次有給休暇を付与する必要があります。逆に言えば、入社後6ヶ月以上勤続していても、出勤率が8割未満の従業員に対しては年次有給休暇を付与する必要はありません。
ただし、8割出勤の条件を満たさなかった年も勤続年数には含まれます。たとえば、入社1年の従業員で、全労働日に対する出勤率が8割に満たなかった場合、2年目に有給休暇を付与する必要はありません。出勤率が8割以上なら、2年目には「11日」の有給休暇が付与されるはずでしたが、この場合、2年目の有給休暇は「ゼロ」になります。
しかし、2年目の出勤率が8割以上であれば、3年目に「12日」の有給休暇が付与されます。2年目の有給休暇がゼロだったからと言って、3年目の有給休暇の付与日数が2年目の「11日」になるわけではなく、あくまでも3年目の付与日数である「12日」を付与するということです。
有給休暇の消滅時効と買い取り
有給休暇の有効期間は労働基準法115条によって「上限2年」と定められており、2年を経過すると時効によって消滅します。上述のとおり、前年度に取得しなかった有給休暇は翌年度に繰越すことができますが、さらにもう1年繰越すことはできません。
とはいえ、従業員によっては期間内にすべての有給休暇を取得するのが難しいケースもあるかもしれません。その場合、会社が余った有給休暇を買い取ることはできるのでしょうか? 原則として、有給休暇の買い取りはできませんが、以下の3つのケースでは例外的に買い取りが認められています。
・有効期限を過ぎた場合
2年の有効期限を過ぎてしまった有給休暇がある場合、会社はそれを買い取ることができます。ただし、買い取るかどうかは会社の任意であり、従業員から有給休暇の買い取りを求められても、会社はそれを拒否することができます。
・退職日までに取得しきれない場合
従業員が退職することが決まっており、退職日までに有給休暇を取得しきれない場合は、従業員と協議のうえ同意を得れば買い取ることができます。
・法定の日数より多い有給休暇を付与している場合
会社独自の福利厚生などで、法定の日数より多く有給休暇を付与している場合は、法定の日数より多い分の有給休暇を買い取ることができます。たとえば、法定の有給休暇が10日の従業員に15日の有給休暇を付与していたら、5日分は買い取ることができます。
有給休暇の管理を効率化する方法
企業は従業員の年次有給休暇を適切に管理する必要があり、有給休暇を付与する従業員がいる企業には「年次有給休暇管理簿」の作成が義務付けられています。
ですが、従業員の数が多ければ多いほど有給休暇の管理は煩雑になり、手間や時間がかかります。担当者の負担を軽減するためには、Excelやシステムを使って有給管理をするのがおすすめです。
■Excelによる有給管理
従業員数がそれほど多くない会社であれば、Excelでも効率的な有給管理が可能です。Excelなら使い慣れている従業員も多く、誰でも抵抗なく扱えます。また、無料でダウンロードできるテンプレートも多数あるので、すぐにでも運用を始められます。
■システムによる有給管理
近年では、有給管理機能のある勤怠管理システムや労務管理システムが数多く登場していますし、有給管理に特化したシステムも増えています。このような業務システムを導入すれば、有給管理の負担を軽減できるだけでなく、ヒューマンエラーの防止にもつながるでしょう。
まとめ
年次有給休暇の管理は非常に煩雑です。出勤率の算出や付与するタイミング、年5日の取得義務も含めた取得の状況など、管理すべき項目は多岐にわたり、従業員数が多くなるほど業務負荷も大きくなります。
最適な体制を整えて、ミスなく効率的に従業員の有給管理をおこなっていきましょう。適切に有給を取得することで心身の健康を保ち、企業と従業員のエンゲージメントを向上させていきましょう。
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