ガバナンスの意味とは?目的やメリット・デメリットについて解説!
健全な組織運営を通して長期的に企業価値の増大を図るため、近年「ガバナンス」を強化する企業が増えています。今回は、ガバナンス(コーポレート・ガバナンス)の意味や目的、メリットやデメリット、ガバナンスを強化する方法などについて分かりやすく解説していきます。
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ガバナンスとは
ガバナンス(governance)は、「統治」「管理」「支配」などの意味を持つ言葉です。企業経営においてガバナンスと言ったら、健全な経営を実現するために管理体制や内部統治を強化する取り組みのことを言うのが一般的で、「コーポレート・ガバナンス」とも呼ばれます。
ガバナンス(コーポレート・ガバナンス)の大きな目的は、「企業の不祥事を防ぐこと」と「企業の収益力を強化すること」です。これにより、長期的な企業価値の増大を目指します。
企業がガバナンスを強化することによって、経営者の独断による誤った経営判断や杜撰な管理体制による不祥事を防ぐことができれば、株主などステークホルダーからの評価を高めることにもつながります。
「ガバナンスは上場企業に必要なもの」と認識されている方も多いですが、非上場企業であっても長期的な企業価値の増大や、従業員・顧客・取引先等のステークホルダーとの関係は重要です。したがって、ガバナンスは全ての企業で取り組んだ方が良いものと言えます。
ただ、ガバナンスを強化したいあまり、たくさんのルールを作りすぎても内部の複雑性が高まり、事業推進のスピードが遅くなってしまいます。
ここから解説するガバナンスのメリット・デメリットや事例を参考にしながら、今の自社にとって必要なガバナンス体制を構築し、定期的に見直しながら短期の事業成果と長期の企業価値向上の両立を目指しましょう。
ガバナンスと似た言葉
ガバナンスと似た意味を持つ言葉がいくつかあります。意味の違いについて確認しておきましょう。
■コンプライアンスとの違い
コンプライアンスは「法令遵守」と訳される言葉です。ビジネスにおいては、法令だけでなく、企業理念や業務規定、社内規範なども含め、それらを守ることを言います。コンプライアンスは、ガバナンスの重要な要素の一つと言えるものです。
■リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントとは、想定される経営リスクを割り出し、それを管理することで損失を回避・低減する取り組みのことです。リスクマネジメントもガバナンスの一要素と言えるもので、リスクマネジメントを適切におこなうことがガバナンスの強化につながります。
■内部統制との違い
内部統制とは、企業が不祥事を防ぎ、業務の適正を確保するための取り組みのことです。内部統制もガバナンスを強化するための一つの手法であり、適切な内部統制システムを構築することで経営陣や従業員の違法行為防止につながります。
■ガバメントとの違い
ガバメント(government)もガバナンスと同様に「統治する(govern)」に由来する言葉であり、同じような意味を持っています。ただし、一般的にガバメントと言ったらその主体は国家であり、企業・組織が主体となるガバナンスとはこの点で異なります。
コーポレート・ガバナンスとは
企業が取り組むガバナンスは「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」と呼ばれます。
金融庁・東京証券取引所は、コーポレート・ガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定をおこなうための仕組み」と定義しています。
簡単に言えば、企業経営において公正な判断ができているかどうかを監視する仕組み、ということになるでしょう。
コーポレート・ガバナンスの具体的な取り組みとしては、「内部統制の強化」「社外取締役・監査役の設置」「執行役員制度の導入」「社内ルール・判断基準の明確化」などが挙げられます。
「コーポレート・ガバナンスが効いている」「コーポレート・ガバナンスが保たれている」といった使い方をしたら、会社と株主との関係や会社の経営監視がうまくいっているという意味になります。
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コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業がガバナンス強化を図るうえで参照すべき原則・指針を示したものです。
2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で策定したもので、企業と様々なステークホルダー(株主、顧客、従業員、地域社会など)との望ましい関係性や、企業を監視する取締役会などの組織のあるべき姿について記載しています。
2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、「人的資本」に関する情報開示という項目が追加されるなど、コーポレートガバナンスは、中長期的な企業価値の向上や執行側の機能の強化といった、成長戦略として位置づけを変化させています。
コーポレートガバナンス・コードには、「基本原則」「原則」「補充原則」という3段階の原則が設けられています。東証プライム市場・スタンダード市場の上場会社はすべての原則の遵守が求められ、グロース市場の上場企業については基本原則の遵守が求められています。
「ガバナンスが効いている状態」とは
「ガバナンスが効いている状態」とは、企業の管理体制が徹底しており、内部統制を実現できている状態という意味です。ガバナンスが効いている企業は、顧客や投資家からの信頼が高まり、企業としての価値向上につながります。売上が安定して、資金調達もしやすくなるなど、健全な財務状態を保ちやすくなります。
逆に「ガバナンスが効いていない状態」は管理体制が適切でなく、内部統制ができていない状態です。ガバナンスが効いていない状態が続くと、不祥事が起きやすくなるなど、経営に大きなダメージが及ぶリスクが高くなります。
コーポレート・ガバナンスの主なメリット
■経営陣の暴走を抑止できる
コーポレート・ガバナンスが効いていない会社は、一部の経営陣の暴走によって誤った経営判断を招いたり、ときに不祥事を起こしたりするリスクがあります。不祥事を起こした会社はステークホルダーに大きな損失を与え、社会的な信頼や企業価値が損なわれます。コーポレート・ガバナンスを強化することで、このような経営陣の暴走による不祥事を抑止することができます。
■健全な経営を推進できる
コーポレート・ガバナンスを強化することで、企業は利益偏重の経営ではなく、社会から認められる方法で運営されるようになります。一人ひとりの従業員が企業理念に沿いながら価値創出に向けて動くようになり、社会のニーズに合った商品・サービスを提供できるようになります。
■企業価値を高めることができる
コーポレート・ガバナンスを強化することは、株主の利益を守ることだけでなく、顧客や地域社会、従業員の利益を保護することにもつながります。その結果、企業への信頼度が高まり、長期的に企業価値を向上させることができます。
コーポレート・ガバナンスの主なデメリット・注意点
■ビジネスのスピード感が失われることがある
企業がコーポレート・ガバナンスに取り組むことで、ビジネスのスピード感が失われるリスクがあります。経営陣だけで判断すれば迅速に実行できる場面でも、監視が入ることでスピード感が損なわれ、監視側がストップをかけることでビジネスチャンスを逃してしまうこともあります。
■ステークホルダーに依存してしまうことがある
コーポレート・ガバナンスの取り組みにおいては、ステークホルダーの利益を重視することが大切です。しかし、株主などのステークホルダーはときに短期的な利益を求めることがあります。経営陣がリーダーシップを発揮しにくく、ステークホルダーの意志に従わざるを得なくなると、長期的な成長が阻害される可能性もあります。
■コストの負担が大きくなることがある
コーポレート・ガバナンスを強化するために、外部から取締役や監査役を招聘するケースは少なくありません。そうなれば当然、雇用するためのコストが発生します。また、社内でも然るべき管理体制を構築する必要があり、そのためのコスト負担も無視することはできません。
■社会的信用を失うことがある
コーポレート・ガバナンスの施策は必ずしも功を奏するとは限りません。経営陣がガバナンスを強化しているつもりでも実は穴があり、エラーや不祥事が発生してしまうケースは少なくありません。そうなると、「言行不一致な企業」というマイナスイメージから社会的信用を失ってしまうことがあります。
コーポレート・ガバナンスを強化する方法
■内部統制の強化
コーポレート・ガバナンスを強化するためには、内部統制の強化が欠かせません。透明性のある情報開示と財務状況の適切な報告はコーポレート・ガバナンスの重要事項とされていますが、これらを実現するためには内部統制が不可欠です。日々の業務において違法行為や背任行為が生じるスキがない体制を整えることが、コーポレート・ガバナンスの土台構築につながります。
■社外取締役・社外監査役の選任
一部の経営陣による不正を防ぐためには、第三者による監視体制を構築するのが効果的です。この第三者として機能するのが社外取締役や社外監査役です。
社外取締役は経営を監視する役割を担い、社外監査役は、取締役が法令や定款を遵守しているかどうかを監督する役割を担います。コーポレート・ガバナンスを強化するうえで、社外取締役や社外監査役が目を光らせることは非常に重要です。
■執行役員制度の導入
執行役員は取締役とは別に選任され、業務執行の責任・権限を有するポジションです。執行役員制度を導入することで、経営機能と執行機能が分離され、経営の健全性と効率性を高めることができ、コーポレート・ガバナンスの強化につながります。
ガバナンスを使用する際の注意点
■横文字の多用を控える
ガバナンスという言葉を耳にすることが増えましたが、ガバナンスに限らず、ビジネス用語は横文字で溢れかえっています。ビジネスシーンでは横文字を好む人も少なくありませんが、あまり多用すると、結局何が言いたいのか分からず、相手を混乱させてしまうことがあるため注意が必要です。
■伝わりやすい言葉に置き換える
ガバナンスは比較的新しい概念であり、「聞いたことはあるけど、実はよく意味が分かっていない」という人も少なくありません。ガバナンスという言葉を使うことで話がぼやけてしまうようなら、より伝わりやすい他の言葉に置き換えたほうが良いでしょう。相手によっては、「健全な経営をするための管理」「不祥事を防ぐための仕組みづくり」などと言ったほうが伝わりやすい場合もあるはずです。
■意味を理解して使う
ガバナンスなどのビジネス用語は分かったつもりになりがちですが、意味を取り違えている人も少なくありません。正しい意味で使用しないと、相手の誤解やトラブルを招いたり印象を悪くしてしまったりするおそれがあります。ガバナンスという言葉の意味はもちろん、注目されている背景なども理解したうえで使うようにしましょう。
企業のコーポレート・ガバナンス強化の成功事例
■ソニーグループのコーポレート・ガバナンス
ソニーグループ株式会社は、「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」において「Winner Company」を受賞。
取締役会メンバー11人中9人が社外取締役に代表される取締役会の執行と監督の分離、取締役会・委員会の実効性向上に加え、多様な事業を有しながらもパーパスを下敷きとして全従業員の一体感の醸成し企業価値向上につなげていることが高く評価されています。
■ピジョンのコーポレート・ガバナンス
ピジョン株式会社は、「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」において、「Winner Company」を受賞。
資本コストを上回る企業価値の創造額を表す独自の経営指標であるPVA(Pigeon Value Added)を重要指標に位置付けて、その向上に組織一丸となって取り組んでいること、CEOの選・解任基準(『3事業年度連続でROEが5%未満』)を社外にも公表する等、透明性のある経営が高く評価されています。
まとめ
コーポレートガバナンス・コードの改訂でも述べた通り、近年コーポレートガバナンスは、成長戦略の一貫で捉えられることが増えてきました。こうした中、成功事例であげた2社からポイントを抜き出すとすれば、執行機能の強化があげられます。ガバナンスの根幹をなす社長・CEOの選任・後継者計画ももちろんながら、経営のメッセージがいかに現場に届くコミュニケーションシステムを組み立てることができるかも、今後より重要になってくると考えられます。
コーポレート・ガバナンスを強化することで、長期的に企業価値を発揮し続けられる地盤を作っていきましょう。
ガバナンスに関するよくある質問
Q:大学における「ガバナンス改革」とは?
社会環境が急激に変化する昨今、グローバル人材の育成やイノベーションの創出、経済再生や地域再生など、大学に対する社会からの期待が高まっています。各大学が国内・国外で競い合いながら人材育成・イノベーションの拠点として教育研究機能を最大限に発揮していくためには、学長のリーダーシップのもとで戦略的に大学をマネジメントできるガバナンス体制の構築が不可欠です。このような背景から、大学において「ガバナンス改革」が推進されるようになっています。
Q:コーポレート・ガバナンスが注目されるようになった背景は?
コーポレート・ガバナンスが注目されるようになったきっかけは、企業における不祥事が多発したことです。山一證券の損失隠しや雪印食品の牛肉偽装事件、カネボウやオリンパスの粉飾決算、東芝の不適切会計など、品質管理の不正や不適切な会計処理などが当時大きなニュースになりました。ずさんな管理体制から不祥事を招いてしまうと、企業の信頼は一夜にして失墜します。このような経営リスクを防ぐために、コーポレート・ガバナンスが注目されるようになったのです。
Q:スチュワードシップ・コードとは?
スチュワードシップ・コード(Stewardship Code)とは、コーポレート・ガバナンスの向上を目的とした機関投資家の行動規範のことを言います。コーポレートガバナンス・コードは企業がコーポレート・ガバナンスを実現しつつ持続的に成長するための、企業に求められる行動規範であるのに対し、スチュワードシップ・コードは企業の外部にいる機関投資家に求められる行動規範です。
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