行動の中で、繰り返す基本。
それが、新入社員を 社会人に変える。

キヤノンマーケティングジャパン株式会社

人事本部 額田泰介 氏

新入社員の学生気分を払拭し、 自ら学び、自ら成長していく社員を育てる。

現場の仕事に接続するための 行動から学ぶ「新入社員研修」をスタートさせた キヤノンマーケティングジャパン。 研修に込めたねらいと人材育成への思いを、 人事本部の額田泰介氏にお伺いました。

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新入社員早期育成に必要な3つのポイントとは?

行動させ、学生気分を払拭する

研修担当1年目の私が新入社員研修を実施す る上で考えたことは、座学による〝教える〞研修ではなく、ビジネスにおける〝基本を繰り返し実践させる〞研修を実施し、現場配属後の仕事に接続していくことでした。

以前採用担当をしていたため新入社員との接点はありましたし、入社までいざなうという役割を経験していたことで、〝学生気分を払拭し、社員(社会人)に変えること〞という課題が明確に見えていました。一昔前と比べると今の若者は優秀で頭がよく、言われたことをやることは得意ですが、いざ行動に移すときに応用が利かない面が目立ちます。そして「失敗して恥ずかしい思いをしたくない」 という思いからか、行動も内向きになっている気がします。

自ら考え、行動することを放棄し、無意識のうちに安全運転をしてしまう傾向があります。そこで私は彼らが得意とする座学による研修ではなく不得意である「行動し、応用を利かす」という部分にスポットを当てたいと考えました。

一方的に教わったことは研修直後には理解できたと思っても、職場に戻って実践しようとすると覚えていない、使えない、応用できないとなることがほとんどです。座学はもちろん重要ですが、繰り返し実践させ研修内容を〝ハラオチ〞させ、身体にしみ込ませることで、初めて現場の仕事に接続できるようになるはずです。お客様に対してビジネスマナーや上司への報・連・相など、仕事で必要になる基本的な行動を盛り込みながら新入社員のビジネススタンスを形成したいと思いました。

安心と信頼が採用・拡大の決め手になった

今回の研修は、もともと法人営業に関わるセクションに所属する者だけが受講していた研修をカスタマイズしたものです。その研修をスキル、知識の研修の前に新入社員全員に受けてもらうことで、社会人としてのスタンスに切り替えるための起爆剤にしたいと考えました。

私自身、もともとリンクアンドモチベーション(以下、LM)とは新卒採用担当時代から付き合いがあったため、弊社を理解してもらっているという安心感と仕事ぶりへの信頼感があったことが実現の決め手になりました。

LMの営業マンはガッツのある人が多く、古き良きハングリーさを持っていて、一緒に頑張りましょうというスタンスで臨んでくれます。彼らの本気は、こちらも「じゃあ、一緒に頑張ろうかな」という気にさせてくれる。そんな熱さが確かな仕事につながり、安心を抱かせてくれるのでしょうね。

新入社員に「渇き」を感じさせる

研修をカスタマイズしていく段階も、こちらの要望をしっかりと受け止めてもらえました。研修プロ グラムの完成度が高いこともあって、カスタマイズにもさほど時間がかからず「土台がしっかりしてい るな」と感じました。コミュニケーションも円滑で、1を言えば少なくとも7か8までわかって下さり、 同じ目的を持って質の高い研修を一緒になってつくっていくことができたと思います。

今回の研修の基盤となった「ダーウィンスタンス」は、本来は仕事に臨むスタンスを変えるためのものですが、仕事の基本を擦り込む必要もあると考えました。

新入社員は、仕事の仕方がわかりません。最初のうちは上司や先輩から「これやって」 「あれやって」と指示を受け実行し報告するわけで すが、報・連・相は新入社員のみならずビジネスパーソンにとって必ずしなければいけない仕事の基本ですので、それらを実行する中での学びや気づきを与えたいと考えました。

だからこそ一方的に教えるだけの研修からスタートするのではなく、〝受身ではない自ら仕事を取りに行く姿勢〞を醸成する「ダーウィンスタンス」 から新入社員研修プログラムをスタートする必要があると考えた訳です。

そうすれば「ロジカルシンキング研修」「グローバル人材研修」といった個別の座学的な研修プログラムも自らの行動を意識しながら、定着させることができると考えました。

新入社員は大学まで学んできたことで、社会に出てもそれなりにはできると思っている傾向がありますが、ビジネスの基本動作が身についている訳ではないので、それらは大きな武器になり得ません。まずは社会人として足りないものがあること =「渇き」を感じさせれば、より多くのことを吸収できると思ったのです。

またプログラムをより効果的なものにするため に、グルーピングにも工夫しました。採用試験で用いた適性検査の結果を使って同じタイプの人材を集めて行動を予測し、個々の反応を見られるようにしたのです。

自律性が高いチーム、行動意欲が低い人ばかりのチームなどタイプが近い人が集まることで、個人の特性がグループの行動に表れやすく〝気づき〞が得やすくなることを想定し、そこで 得る〝気づき〞がその後の研修につながると考えました。

新入社員が開放される瞬間とは?

研修で印象的だったのは、新入社員たちの表情の変化です。

「怪獣型ロボットベロゴンを製作せよ!」のエクササイズ内でブロック製作をしている際の楽しそうな表情が、ビジネスの厳しさを体感する「クリエイトモチベーションに求人広告を提案せよ!」というビジネスシュミレーションになると曇り出したのです。

「クリエイトモチベーションに求人広告を提案せよ!」のプログラムで登場するクライアント役を目の前にし、そのクライアント役からのコメントに一喜一憂。情報が聞き出せたと盛り上がってつくったはずなのにダメ出しをされて下を向いてしまい議論にさえならないなど、壁を感じながらも前進しようとする姿を目の当たりにしました。

ねらい通りの反応が見られたことはもちろんですが、短期間で成長する新入社員に私は目を細めてしまいましたね。彼らは私にとっては子どもでもおかしくない年代ですから、ある意味親みたいな目線になって〝もっと成長してほしい、だからもっともっと苦しませたい〞なんて考えていた気がします(笑)。こうした変化を目の前で見られたことはとてもよい機会だったと思っています。

もう一つ印象に残っているのは、新入社員たち が同じグループのメンバー同士でフィードバックし合い決意表明をしていく『鏡に映った自分(アドバイススクランブル)』です。人には、人とのコミュニケーションの中で「開放される」瞬間があります。露呈した弱みや自分の内に秘めている部分と向き合い「自分はこういう人間だ」と知る。そしてそれを同期の前で話すことは、とても大きな変化につながると感じました。

もしかしたら自分自身をさらけ出し露呈することは、ある意味とても恥ずかしい体験だったのではないかと思います。気の合う同期から顔しか認識できない同期と様々な「同期」に対して踏み込んで話せたことで、表面上ではない真のチームワークが形成されるよいきっかけになったのではないでしょうか。

教えたのはストレートとカーブだけ

ねらい通りの成果が得られた反面、今回の研修では意外な発見をすることもできました。研修をつくっていく段階で、タイプ別にチーム分けをした ことで、二つの興味深い場面を見ることができた のです。

一つは「自分ができると思っている新入社員」の チームに見られた傾向です。頭が切れるだけあっ て、どこか「これは研修だ。ヒントとルールがある。」 と斜に構えており、こういう新入社員にはある意味難しさを感じました。実際のビジネスには正解は ひとつではありません。しかし、〝答え探し〞の近道 をしている姿に近年の優秀な若者のあやうさを感じました。

二つ目はうれしい発見だったのですが、「行動力が弱い」チームでの発見でした。確かに動きは悪くのっそりしているのですが、一歩一歩、着実に足元を固めていて「亀」の強さを感じました。他のグループにいるような活発なメンバーと一緒のチームだったらこのメンバーからリーダーが生まれることもなかったと思いますが、リーダー役がちゃんと出てくるのですね。また、お互いが働き掛け合いながら議論を重ね、変化し、バランスの良いチームになる。こうした人材たちが飛び抜ける瞬間を見られたことはとても面白かったですね。

この研修を終えた後スキル系の研修を実施しましたが、スキルや知識を詰め込むだけの研修はほとんどありませんでした。野球(ピッチャー)で言えば、教えたのは〝ストレート〞と〝カーブ〞だけであえて応用部分は自分次第としました。スライダーも チェンジアップもフォークも教えず、あとは試合で キャッチャーに向かって投げて、打者との間合いなどを自分なりに考えて成長してほしいというねら いがあったからです。

また全体の研修を通して伝えたかったのは、弊社の行動指針である「三自の精神」〝自分が置かれている立場・役割・状況をよく認識し(自覚)、何事も自ら進んで積極的に行い(自発)、自分自身を管 理する(自治)姿勢で、前向きに仕事に取り組むこと〞です。それらを噛み砕いて〝自ら考え、行動することの大切さ〞を伝えることができたと自負しています。

自ら学べないと成長は止まってしまう

今後は「ビジネスアカデミー」と題して、業務時間外に自ら使えるスキルを選び学んでいける研修が待っています。社員たちは自分に必要なスキルを、自ら投資して学んでいくわけです。自分への投資をやめたら成長は止まる。そこで得られるものがリスクかリターンは自分次第という環境を用意し、より大きく羽ばたいていける人材を育てていきたいと考えています。

また来年度以降の研修では、 個人力を鍛えていくような仕組みをつくってみたいとも考えています。5~6人のチームを組むのではなく一人ひとりが責任を持って動き、成果を出すために努力が求められる。そんな研修を作ってみたいですね。個人力を上げることで、チームの力がより強くなるという環境をつくりたいです。ビジネスシーンでは、チームワークも大切ですが個の力がブレイクスルーに導く場面が多々あります。 スキル、知識ではなく「自分がやらなければならない」という、一人ひとりをドライビングフォースとするような研修があれば理想的だと思うのです。

LMは熱意を持って、価値を提供してくれる会社だと思います。社名の通り、モチベーションにあふれていますね。若い人が裁量権を持ち何とかしようという意志が強く、真摯に向き合ってくれるので気持ちよく仕事をすることができました。今後は、一緒にリスクを冒してくれるような存在であってほしいと願っています。型通りの研修ではなく新しい価値をつくっていく……。そんなことができれば、かつてないほど面白い仕事ができるとワクワクしています。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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